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小林 恭子 プロフィール
「ブリストル・ケーブル」の紙面

協同組合方式で創刊された「新地方紙」

今回の会合で注目を集めたもう1つは、直接「デジタル」の話ではないのだが、地方紙「ブリストル・ケーブル」の話だった。

日本同様に、英国ではネットでニュースを読む習慣が定着しており、紙の新聞が売れなくなる傾向が続いている。特に厳しいのが地方紙市場だ。業界サイト「プレス・ガゼット」の調べでは、過去10年間で約300紙が廃刊したという。

ブリストル・ケーブルは、紙からネットへと読者が移動する中で、弱体化した地方紙市場に生まれた新たな新聞だ。

2013年のある晩、アレック・サーレンス氏は、英国南西部の都市ブリストルのパブで友人たちとビールを飲んでいた。「地元の新聞が廃刊になった。寂しいものだな」と誰かが言いだすと、友人たちも同様の愚痴をこぼした。まだ新聞は残っている場合でも、「ジャーナリズムの質が低い」という友人もいた。

「それなら、自分たちで新聞を作ろう」――いつの間にか、数人で意気投合していた。

DENの会合に小型タブロイド判のブリストル・ケーブルをたくさん抱えてきたサーレンス氏によると、創刊前に地元コミュニティにどんな問題があり、人々は何を新聞に期待しているかを知るために、各地で35回に上るワークショップを開いたという。クラウドファンディングで資金を集め、2014年11月、隔月発行の無料紙として創刊した。

ユニークなのが協同組合形式の経営だ。読者は毎月1ポンドを支払い、新聞の所有者の一人になってもらう。毎号、約1万部を印刷している。

創刊号はブリストルの飲食業の調査報道記事を1面にした。全面カラーで、写真、インフォグラフィックス、イラストなどがちりばめられ、洒落た体裁となっている。

サーレンス氏によると、今のところ「ジャーナリストも、紙面デザイナーも全員がボランティアとして無給で働いている」。彼自身は編集長兼雑用係。普段はウェイターとして働く。ジャーナリズムの経験は「全くなかった」というが、これからも地道に発行を続けてゆく予定だ。ちなみに、1つの号を発行するためにかかる費用は約1,000ポンド(19万円)だ(人件費は除く)。

デジタルの時代だが、「うちの読者は紙の新聞であることを非常に気に入ってくれている」(サーレンス氏)。

収支を合わせるに何年かかるか分からないブリストル・ケーブルだが、「あえて、紙」という選択をし、読者の声を直接聞き、必要とされる問題を取り上げてゆくスタイルは、非常に面白い試みといえるだろう。

DENのイベント出席は大手メディア勤務者に限られておらず、メディアに興味のある人ならだれでも可能だ。参加は原則無料だが、申し込みの際に寄付として10ポンド相当を払うこともできる。

小林恭子(こばやし・ぎんこ)
在英ジャーナリスト。秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(共著、洋泉社)。 http://ukmedia.exblog.jp/