中国理解の急所はココだ! 「知の巨人」エズラ・ヴォーゲルが描く鄧小平

【まえがき公開】『鄧小平』(聞き手:橋爪大三郎)
エズラ・F・ヴォーゲル, 橋爪大三郎

鄧小平は、中国の方向を、どのように転換させたのか。これほどまで強大な経済的・政治的パワーをもつに至った中国の、基礎をどのように築いたのか。その答えを、橋爪氏と私の二人で、講談社現代新書として日本の読者に届けることができて、嬉しく思っている。

『鄧小平』(新書版)のできるまで

文/橋爪大三郎

エズラ・F・ヴォーゲル博士は、現代アメリカの日本研究、中国研究を代表する社会学者である。長年、ハーバード大学教授を務めた。

1999年から翌年にかけ、私は客員研究員として、ハーバード大学に滞在していた。尊敬するヴォーゲル博士にも何回か、インタヴューを受けていただいた。博士が2000年に同大学を退職してからも、大学のすぐ近くのご自宅を訪れるなど、交流が続いた。

インタヴューのなかみは、『こんなに困った北朝鮮』(橋爪大三郎著、メタローグ、2000年)、『ヴォーゲル、日本とアジアを語る』(エズラ・ヴォーゲル×橋爪大三郎著、平凡社新書、2001年)、そのほかの雑誌の記事で見ることができる。

ハーバード大学を退いたヴォーゲル博士は、鄧小平を研究のテーマに定め、なおも多忙な日常の合間をぬって、エネルギーのすべてをこの研究に投入し続けた。

以来、10年あまり。ついに、待望の『鄧小平』(本編)が完成した。英語版が2011年、中国語版(香港版、台湾版)が2012年、中国語版(大陸版)が2013年、日本語版が2013年。中国語版(大陸版)は特に、予想を上回るベストセラーとなり、多くの読者に迎えられた。

私は刊行と同時に英語版を読み、中国語版も読み、日本語版も出るのを待ちかねて目を通した。中国語訳も日本語訳も、すぐれた訳である。ヴォーゲル博士の研究の全貌が、このようなかたちで、英語圏や中国、日本の読者の目に触れることとなったのは、きわめて喜ばしい。

『鄧小平』(本編)は、かっちりした学術書の体裁をとっている。関連資料をくまなく踏査し、膨大で周到なインタヴュー、クロスチェックを経て、歴史に生き、歴史を拓いたひとりの指導者の実像に迫っている。分析は客観的、合理的で、関連事項への目配りも行き届いている。実証研究とはこうあるべきだという、お手本のような見事な書物である。

ただ、残念な点を言えば、ボリュームが大きい。値段がそれなりに高い。内容が専門的で、敷居が高い。本来ならばここから有益な情報をえられるはずの広汎な一般読者に、このままでは届きにくいことだ。

やはり、ヴォーゲル博士の鄧小平研究の核心を、わかりやすく伝える「普及版(ポピュラーバージョン)」がなければならない。こう確信した私は、ヴォーゲル博士を訪問し、鄧小平についてのインタヴューを新書にしませんか、と提案した。