ここまでくると、「じゃあ大きな病院とか総合病院がいいの?」という話になってきます。必ずしもそうとは限らない、という話もしておきましょう。
まず、お産は何が起こるかわかりません。どんなに高次機能施設、たとえばNICU(新生児集中治療室)やER(救命救急センター)を備えた施設であっても、救えない命もあります。施設の問題だけでなく、医療従事者の問題もあります。これは僕の個人的な見解です。
どんな病院を選んだらいいのか、と聞かれたら、「もし母体や胎児が危機的状況になったとき、きちんと対応して適切な処置と最善の努力をしてくれるところ」と答えます。
産科医としては、「帝王切開が速やかにできるか」「新生児の蘇生ができるかどうか」も重要だと考えます。周産期医療センターは、決定後30分以内に帝王切開が開始できることを努力目標とすると定められていますが、なかなか難しいのが現状です。むしろ手慣れた小さな医院のほうが素早く帝王切開を開始できる場合があります。
さらに、緊急帝王切開だけでなく、普通に生まれてくる赤ちゃんの10人にひとりは、蘇生処置がないとうまく泣けない子です。こうした状況に対応できるかどうか、新生児蘇生法の研修を受けているかどうかも考慮したいところです。また、周産期専門医として、母体の蘇生に関する研修を受けていることも安心材料になるのではないかと考えます。
もちろん、救命救急や蘇生に関する認定証があったからといって、すべての妊婦と赤ちゃんを救えるわけではありません。ただ、そこには医者の心根というか、いつなんどき起こるかわからない、緊急時に備えてシミュレーションをしているかどうかという姿勢と矜持が見えてくるのではないかと思うのです。
ただし、これらはホームページなどに明記してあるものではありません。医者や病院、施設がこれらの情報を公開していないことも多いのです(理由はいろいろあります。大人の事情という……)。
実は、分娩施設については、「周産期の広場」(http://shusanki.org/area.html)が詳しいですし、周産期専門医や認定医、施設については、「日本周産期・新生児医学会」などのホームページで検索できますので、気が向いたらチェックしてみてください。
これは僕の自慢ですが、うちの病院ではこれらの資格をすべてのスタッフがもっています。助産師も新生児蘇生法の認定証を全員がもっています。研修医も同じです。新人が来たら、とりあえず研修に行って認定を受けるよう、強制しているのです。