「クリエイティブ」になりたければ、まず脳を理解しよう!

最新の脳研究が教えてくれること
塚田 稔

新たな自分に出会うためのコミュニケーション

「Shall we Dance ?」という映画が知られているが、私は毎週1~2回、7~8年にわたってダンススクールに通い、個人レッスンを受けていた。世界チャンピオンが踊る前座としてプロとのデモンストレーションも経験した。

費やした費用はここではいえないが、レッスンを通じて得た一つの情報がある。

ラテンのプロの先生にルンバを習っていたときだ。「そのところは、踊るタイミングを一致させるのでなく、“ずらして”踊りなさい」と指示された。私はパートナーと同期させて踊っていればよいと考えていたので、それは大きな驚きであった。

素直に先生の指示に従って踊ると、今まで経験したことのない新しい動きのダイナミクスが互いの筋肉系に生まれるのを肌で感じた。先生は「この表現は今までの踊りよりも大きく見えて美しいのよ」と言われた。

このとき、これはニューロン集団間の位相差情報を使う脳内コミュニケーションの表現にちがいない! とひらめいた。これが新しい情報創成の瞬間だ! 私は嬉しかった。授業料のことはふっとんだ。

もし芸術家が、脳の働きや神経回路網の情報表現を理解して創作すれば、観客を一層惹きつける作品ができるはずだ。いっぽう、脳研究者は芸術家の創作表現から脳内の情報創成のメカニズムを考えれば、脳研究を一層発展させることができるかもしれない。

このように、芸術家と脳研究者との相互コミュニケーションによって人間の創造性のメカニズムが明らかにされ、人間の人間たる存在の重要性が理解されていくことを期待したい。

人間の脳には創造の可能性が平等に与えられている。遺伝子が脳の構造と機能の基礎を形作る基本情報をもっているにしても、人間にはニューロンの可塑性を基に後天的に脳内に情報を表現する創造性の機能がある。

しかし、誰にでも平等に創造的世界が実現できるわけではない。人間の脳は混沌として、当初から目的を一つにはしていない。個体はバラバラに、その意志に導かれ、「いまだ見ざる聞かざる知らざる世界」を求めて永遠の旅に出る。

「個」は互いのコミュニケーションによって情報を交換し、自分にない異質の情報を吸収して新たな自分を見つけていく。ここに創造の世界が誕生し、外から客観的に眺めている別の自分に出会うことになる。

(つかだ・みのる 玉川大学名誉教授・脳科学研究所客員教授)
読書人の雑誌「本」2015年12月号より

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