ごく普通の若者がなぜ「レイシスト」に豹変するのか?

在特会会員の素顔と本音
安田 浩一 プロフィール

「2ちゃんねるで情報を集めたり、『嫌韓流』を読んだりするなかで、在日特権の存在を知ったんです。外国人として日本に住んでいながら、反日ばかりを訴える在日に、ものすごく腹が立ちました。

なぜ、そんな人たちに特権など与えるのか、本当にわからない。このままでは日本が反日勢力に乗っ取られてしまう」

『嫌韓流』は2005年に発売され、シリーズ累計で90万部という、この手のものとしては驚異的な販売実績を記録した漫画作品である。韓流への対抗軸、いわゆる「嫌韓」をテーマとし、日韓の歴史問題(植民地政策、慰安婦問題など)に関して、韓国側を徹底的に批判した内容となっている。

在特会のみならず、昨今の草の根保守を支える「ネット右翼」には、この本に影響を受けた者が多い。彼らにとってはバイブルともいうべき作品だ。

たしかによくできた本ではある。冒頭でサッカーの日韓ワールドカップを取り上げ、韓国代表選手のラフプレーや同国サポーターの「反日ぶり」を描くあたりは、まさに、当時の右派的心情を代弁している。

 

この描写を端緒として歴史問題や「在日特権」につなげていく手法もこなれたものだ。「韓国には、そもそも誇れる文化なんかないのだから!」といった登場人物のセリフにカタルシスを得た者も少なくはないだろう。

その一方で、著者の主張と対立する人物(在日韓国人や、その権利擁護を主張する者)が醜く描かれるといった表現方法に、私は違和感を覚えた。

いずれにせよ「嫌韓」といったムーブメントの源流となった歴史的価値は記録されてよい(ちなみに2011年に刊行された『文庫版・嫌韓流』には、巻末に著者の山野車輪と桜井誠の対談が収められている。そこでは私に対する批判も展開されているのだが、これについても後に詳述したい)。

カルデロン一家への抗議デモ

福岡支部の女性会員に話を戻そう。2ちゃんねるや『嫌韓流』に影響を受けた彼女は、しかしその後、さらに大きな衝撃と出会うことになる。彼女が在特会に入るきっかけともなったそれは、動画サイト「YouTube」にアップロードされた1本の動画であった。

「在特会によるカルデロン一家への抗議デモ。この様子を映した動画を目にして、日本に居座る外国人に対して、強い憤りを覚えたんです。同時に、堂々と声をあげて抗議デモする在特会の姿に共感を覚えました。私はこれをきっかけに在特会への入会を決めたんです」

これは2009年4月におこなわれた、いわゆる「カルデロン一家追放デモ」と呼ばれるものだ。その頃、不法滞在を理由に入国管理局から強制送還を迫られていたフィリピン人のカルデロン一家の問題が連日、テレビや新聞で大きく報道されていた。

両親と娘からなる3人家族のカルデロン一家は、中学1年生の娘だけが日本生まれだったため、彼女自身は「友達と離れたくない」と、涙ながらに両親の送還処分撤回を訴えた。

しかし結局、入管当局は両親だけをフィリピンに送り還し、家族は離れて暮らすことになる。支援団体はこの入管の処置を非人道的な行為であると強く抗議し、メディアもこぞって「引き裂かれた家族の悲劇」を報じた。

私個人の意見としては、たとえ不法な入国手段であったとしても、長く日本に居住し、生活基盤を確立した家族に対しては、特別在留許可というオプションを用いてもよいのではないかと考えている。

移民政策のようなものがない日本は、しかし、単純労働の分野では外国人に依存してきたのだ。柔軟な対応があってもよいはずだ。

だが、問題発覚時から一貫してネット言論は「強制送還支持」を訴えていた。2ちゃんねるをはじめとするネット掲示板には「処分は当然」「お涙頂戴の報道はやめろ」といった書き込みが殺到した。

在特会も早くから「不法入国者、外国人犯罪者を助長させるな」とのメッセージを発表、ついにはカルデロン一家の居住地だった埼玉県蕨市において、「国民大行進」と銘打った大々的なデモ行進を展開したのである。

2009年4月11日。集まった約200人のデモ隊は「不法滞在者を即時追放せよ」「犯罪外国人を擁護する左翼やマスコミは出て行け」「カルデロン一家を叩き出せ」とシュプレヒコールをあげながら、日章旗を担いで市内を行進した。

デモのコースには、当事者である娘が通う蕨市立第一中学校前も含まれていた。デモ隊は中学の校門に差し掛かると、わざわざそこで立ち止まり、「ここが第一中学校です。怒りの声をあげましょう」と叫ぶ先導役に合わせ、「不法滞在者、不法就労のカルデロン一家を、直ちに日本から追放するぞ!」とシュプレヒコールを繰り返したのである。

いくらなんでも13歳の少女をターゲットに「叩き出せ」だの「追放」はないだろうと、後に在特会がアップした動画を目にしたとき、私は気分が悪くなった。

このとき、カルデロン家の娘は音楽部の活動のため、学校内にいたのである。彼女はどんな思いで、罵声に耐えたのだろう。

この日のデモに対しては外国人支援団体なども蕨に駆けつけ、沿道からデモに抗議の声をあげた(在特会側の横断幕を引きずりおろしたとして、支援団体のメンバーが逮捕される騒ぎもあった)。

右派の論客として知られる新右翼団体「一水会」代表の木村三浩は、左翼系の「人民新聞」に寄稿し、次のように論じている。

〈「在特会」は、街頭でも勇ましいことを言って、相手を口汚く罵って排除するという運動スタイルで、「品位がない」という批判が右翼からも出ている。

蕨市・カルデロンさん一家に対する抗議デモもまるで弱い者イジメで、到底賛同できるものではない。右翼は弱い者イジメはしない。

だがこれも、マスメディアが多く集まっているところでのパフォーマンス戦術なのだ。こんな表層的な感情論に左右されてしまうほど、滑稽なことはない。

彼らが登場してきた背景としては、不安定労働が激増し、世の中もギスギスして、やるせない不安やストレスを抱えた若者が多く生み出されたことだ。彼らがそのはけ口を求めて弱い者を攻撃しているのだろうか〉

ただし――ネット言論の世界に限定すれば、在特会を非難する声は少数派にすぎなかった。中学生の少女を槍玉にあげるようなデモを、「よくやった」と賞賛する声が圧倒的に多かったのである。

しかも、この「カルデロン一家追放デモ」は、私が取材した福岡支部の女性だけではなく、多くのネット右翼の心を激しく揺さぶり、結果として在特会の急成長を促す原動力ともなった。

前出、広報局長の米田は私の取材に対して、次のように話している。

「(カルデロン家の追放デモは)在特会にとってのエポックと言ってもよいでしょう。

デモの動画をアップしたとたん、ものすごい数の視聴者がついたし反響も過去に例がないほど大きかった。これで会員が急増したんです。

デモ後しばらくは、一日に数百人単位で会員が増えたんですからね」

なお、米田は、「カルデロン一家追放デモ」の目的をこうも語っている。