ごく普通の若者がなぜ「レイシスト」に豹変するのか?

在特会会員の素顔と本音
安田 浩一 プロフィール
大分でおこなわれた「支部発足記念街宣」

次にマイクを握ったのは、八木と同じく在特会副会長の肩書を持つ先崎玲(ハンドルネーム・54歳)だった。先崎は九州方面を統轄する責任者で、設立時からのメンバーだ。福岡市内で美容院を経営している。

職業柄なのか、短く刈り込んだ髪型は50代にしては若々しい印象を与え、地味なファッションの若者が多い在特会にあって、洋服の着こなしも洗練されている。この日も黒いシャツの前面をはだけ、身体にフィットした白いニットシャツを見せるといった"ちょい悪"な演出が光っていた。ただしアジ演説は怒鳴りあげるだけの一本調子である。

「これまでねえ、日本人をナメるな、朝鮮人は出て行けと言える団体はなかったんですよ。それはなんでですか、みなさん。朝鮮人が怖かったんでしょ? 朝鮮総連が怖かったんでしょ? 韓国民団が怖かったんでしょ?

善良な市民がね、彼らにどれだけやられてきましたか。もういい加減にしてほしいと立ち上がったのが我々なんですよ」

そこまで話すと先崎はさらに表情を険しくした。おそらくは桜井の真似なのだろうが、マイクを持っていない右手を大きく振り上げ、絶叫した。

「強制連行はあったんですか?(「ありませーん」と合いの手)従軍慰安婦なんて存在したんですか?(「いませーん」)この大分にも韓国人売春婦がいっぱいいるでしょう。

日本全国に5万人も韓国人売春婦が来ているんですよ。慰安婦なんてのはそれと同じことでしょう。

要するに股をおっ広げて、カネもらってただけでしょう(「そうだあ」)。そんな女性たちになんで謝罪や賠償をしなくてはならないのですか! そんなことを言い出したのが、村山富市、筑紫哲也といった大分県出身者なんですよ!

わかってるんですか、大分のみなさん? 日本をナメるなと言いたい!」

 

いつのまにか糾弾の対象が大分県民にすり替わっている。何かを訴えるというよりは、まるで説教しているようだった。目の前を足早に通りすぎるだけの人々に、先崎も苛立ちを隠せなかったのかもしれない。

だが先崎がどれだけ煽ったところで、この日、聴衆と呼べるのは、買い物に疲れてバス停の椅子に腰掛けた数人の老人だけで、最後まで街宣に耳を傾けていたのは地元警察の公安刑事くらいのものだった。

そうしたなか、私の目を引いたのは、紅一点の街宣参加者である。赤白ボーダーのTシャツにジーンズというラフな格好で来ていた29歳のOLだ。

肩甲骨のあたりまで伸びた長い髪が風に揺れる様は、どことなく野暮ったい男性参加者との差異を際立たせている。くりくりした二重の目には幼さが残り、「少女」と表現してもおかしくない顔立ちだ。

「在日特権を許さない市民の会でございまーす。みなさーん、ご静聴をお願いしまーす」と、可愛らしい声で切り出したものの、話が「在日特権」に及ぶと、声色に突然、凄みが加わった。

「お前ら在日は、差別だ人権だと騒ぐばかりで、何かあれば顔を真っ赤にして金を要求する。それが人に物を頼む態度か! 高校サッカーの全国大会にも、高校でもなんでもない朝鮮学校が出場している。それが特権なんですよ。

朝鮮学校なんて得体の知れないものに、大学の受験資格まで与えている。そのうえ授業料の無償化ですか? どこまで厚かましいんですかあ? いままで一度でも日本人に『ありがとう』って感謝したことがあるんですかあ? こんな輩が通う朝鮮学校に、税金を投入するなど許されません!」

若い女性だけあって、さすがによく通る声だった。言葉の刺々しさと、あまりにも「普通」な外見とのギャップは、それまで無関心を装っていた買い物客を、ちらりと振り向かせるくらいの力はあったようだ。彼女はひときわカン高い声を張り上げて、演説を次のように締め括った。

「こちらが一歩引けば、一歩踏み込んでくるのが朝鮮人なんです。この恩知らず! 恥知らず! 礼儀知らず!」

強烈だった。陶酔したようにまくしたてる桜井や、怒鳴りあげるだけの先崎とも違う。空気を切り裂くようなピリピリした鋭さを持っている。まるで目の前にいる「朝鮮人」を吊るし上げているかのような迫力だった。

私は演説を終えたばかりの彼女に、おそるおそる話しかけてみた。名刺を差し出すと、こちらが拍子抜けするほどに、か細い声が返ってきた。

「あっ、どうも。はじめまして」

ちょこんと頭を下げる彼女の表情には警戒の色こそ浮かんでいたが、拒絶するような素振りは見えない(その頃はまだ、私が誰に話しかけようが、在特会側もとくに咎めることはなかった)。

福岡支部に所属する彼女は、応援のためにわざわざ福岡から大分まで駆けつけたのだという。なぜ活動に参加しているのかと訊ねる私に、彼女は「増え続ける外国人が怖いから」と答えた。

「私が住んでいる福岡は昔から在日が多く住んでいます。加えて最近では集団で歩く中国人を多く見かけるようになりました。ハングルや中国語で書かれた標識や看板も増えてきました。

このままでは街が在日や中国人に汚されていくようで悲しいんです」

故郷が外国の軍隊から侵略を受けたかのような、それこそ〝悲しい〟表情を浮かべながら、彼女は静かに訴えた。

彼女のなかでは華僑や在日コリアンといったオールドカマーと、留学生などのニューカマー、あるいは韓国人と中国人とが一緒くたになっている。具体的に何か「被害」を受けたことでもあるのかと訊ねても、「とくにないけど、怖くてしかたない」と繰り返すだけだ。

漠然とした外国人への恐怖を、さらに増幅させたのがネットや書籍で得た知識だった。