ごく普通の若者がなぜ「レイシスト」に豹変するのか?

在特会会員の素顔と本音
安田 浩一 プロフィール

「要するにですね」

そこで米田は一呼吸置くと、私を正面に見据えたうえで一気呵成にまくしたてた。

「我々は一種の階級闘争を闘っているんですよ。我々の主張は特権批判であり、そしてエリート批判なんです」

このときばかりは米田の表情から穏和な色が消えていた。顔には険しさが増し、目の奥には憎悪が光っていた。軽く怒気を含んだような声で米田は続けた。

「だいたい、左翼なんて、みんな社会のエリートじゃないですか。かつての全共闘運動だって、エリートの運動にすぎませんよ。あの時代、大学生ってだけで特権階級ですよ。

差別だ何だのと我々に突っかかってくる労働組合なんかも十分にエリート。あんなに恵まれている人たちはいない。そして言うまでもなくマスコミもね。そんなエリートたちが在日を庇護してきた。だから彼らは在日特権には目もくれない」

 

ここで「階級闘争」なる言葉が飛び出してくるとは予想もしなかったが、言わんとすることはわかる。つまり彼らは自らが社会のメインストリームにいないことを自覚しているのだ。自分たちを非エリートだと位置づけることで、特権者たる者たちへの復讐を試みているようにも思える。

在特会は、デモや街宣中に左翼党派の学生組織などに出くわすと、「親の脛をかじっておいて、何が革命だ!」といったヤジを飛ばす。ずいぶんと古典的な物言いだなあと感じつつも、どこかしら切実さの伴った、悲鳴にも似たその声にはある種のリアルな説得力があった。

私は在特会の下卑たアジテーションは完全なヘイトスピーチ(人種、属性や外見を理由に他人を貶めるような言動)だと思っているし、なかでも在日コリアンや中国人留学生などに対する攻撃は弱いものイジメ以外の何ものでもないと確信している。

焼肉店に向かって「ゴキブリ朝鮮人」と連呼したり、街宣中に目の前を通りかかっただけの中国人女性に対して、「シナ人、出て行け」「バカヤロウ!」と会員らが突っかかる光景は、とてもじゃないが正視できなかった。

会長の桜井にいたっては、やたら「殺す」を連発する。朝鮮大学校の前で「我々は朝鮮人を殺しに来たんだよ!」などとマイクでがなりたてたこともある。正直に言えば、こんなものは政治活動でも市民運動でもあるものかと反発を覚えながら取材を続けたことも少なくなかった。

だが米田をはじめとする在特会会員は、自分たちこそが「弱者」であり、貶められているのだと信じている。彼らは「弱者」によるレジスタンスを闘っているのだ。

米田の話を聞きながら、私はこの1ヵ月ほど前に取材した、在特会の大分での街宣の様子を思い出していた。手馴れた感じの桜井の演説はともかく、次々とマイクを握る会員たちの声や表情から垣間見えたのは、怒りというよりは、得体の知れぬどろどろした憎悪のようなものだった。

20代OLの"激情"アジ演説

「私たち日本人は逆差別を受けているんですよ!」

大分市の中心部。老舗デパート前の歩道に大声が響き渡った。「『朝鮮学校無償化』は憲法違反! 反日朝鮮人への公的資金投入を許すな!」と大書された横断幕が風に揺れる。

集まったのは会長の桜井をはじめ、在特会の大分支部や福岡支部のメンバー15人。それぞれが会の幟や日の丸、「在日特権の正体」などと書かれたプラカード、あるいは拉致被害者である横田めぐみさんの写真を手にしていた。

マイクを手にしているのは大分支部に所属する30代の男性だ。白い半袖のワイシャツに紺のネクタイ。サラリーマン風の出で立ちである。

「在日は生活保護の受給率が非常に高いんです。なのに日本人はなかなか受給できないんです!」

在特会の街宣では欠かすことのできない「生活保護」に関する話題だった。

「通名制度だって、在日だけに許されているんですよ。これによって、日本人になりすますことができるんです!」

 

いわゆる「在日特権」を訴えているわけだが、カンペを見ながらの演説は、どこかたどたどしい。いま一つ迫力に欠けるし、語彙も乏しい。そこが桜井との"格"の違いであろう。

桜井であれば右に左にせわしなく身体を移動させながら、手振りを交えて聴衆の耳目を惹きつけるだけの"芸"がある。滑舌もはっきりしているので、聞き取りやすい。だが、その男性の素朴な口調には、内容はともかくも、ある種の生真面目さは滲み出ていた。

おそらくは、これが在特会員の平均的な姿であろう。人前で話すことに慣れていない。それまで政治活動の経験もない。

いわばまったくの素人ではあるのだが、芝居がかっていないぶんだけ、少なくとも私には、なにか切実さみたいなものだけは伝わってくるのである。