「差別」「排斥」はニッポンの娯楽になってしまったのか?

そしてヘイトスピーチが日本を侵食する
安田 浩一 プロフィール

排斥という悲しきムーブメント

一方、在特会が凋落傾向にあるとはいえ、日本社会の一部に巣くう"在特会的"な気分は、むしろ広まりつつある。

私が今、危機感を持っているのはそうした「空気」に対してである。

2015年2月、川崎市(神奈川県)で起きたリンチ殺人事件。13歳の少年は年上の少年グループからリンチを受け、無残にも殺された。許しがたい凶行である。

だが、この事件もまた、「外国人排斥」を訴えるグループからは最大限に"利用"された。

3月14日、この事件を糾弾するデモ(参加者約50名)が川崎市内でおこなわれた。

事件の主犯少年の母親が外国人であり、父親もまた外国人の家系であったことから、当初からネット上では「外国人叩き」の文言が飛び交っていた。待ってましたとばかりに差別主義者たちが街頭で跳ねまくることになったのだ。

デモの前段集会で、主催者の男は声を張り上げた。

「今回は上村遼太君の弔い合戦です!」

事件で犠牲となった少年の名前を出した。そして参加者が「そうだあ!」と唱和する。続けてマイクを持った女性が大声で叫んだ。

「日本人が犠牲になることなど許されない。日本では外国人による殺人やレイプがどんどん増えているのにマスコミも警察もはっきりと発表しない!」

そして彼ら彼女らは「気持悪い川崎国」などと記されたプラカードを手にして、「大切なご子息が反日に狙われています!」とシュプレヒコールを繰り返しながら練り歩いたのであった。

デモ終了後、私は主催者の中年男性に声をかけた。

――今日のデモ。あれはいったい何を訴えたかったんですか?

「そんなこと自分で考えろ!」

男の怒声が響き渡る。デモを終えたばかりで、まだ興奮状態にあるのかもしれない。私はもう一度同じ質問を重ねた。

――何を訴えたかったんですか?

「答える必要があるのか!」

――そう思いますよ。あなたはデモの主催者なのですから、説明する義務はあるでしょう。そして私には聞く権利があります。

「うるせえ、風俗ライターの分際で! つきまといはやめろ!」

こうした罵倒の応酬には、私も慣れてしまった。だが、事件が起きた地域でデモをしながら、地域を貶めるような文言しか飛び出さないことが許せなかった。そ

れでも、こうしたわかりやすい「敵」を発見しては、食いついて回る暗い情念が、各所で暴発している。

水俣市(熊本県)に住む緒方正実(当時56歳)の自宅に、見知らぬ男の声で電話があったのは14年5月1日夜のことだ。不在の緒方に代わって、妻が電話を受けた。

「そんなにカネがほしいのか」――。

男はさらにこう続けた。

「テレビのニュースに出ていたのは、あんたのダンナか。いつまで騒いでいるのか。そんなことだから国がおかしくなる」

男はそれだけ言うと、名前も告げることなく電話を切った。