「差別」「排斥」はニッポンの娯楽になってしまったのか?

そしてヘイトスピーチが日本を侵食する
安田 浩一 プロフィール

実際、先進各国のなかにあって、人種差別に対する法的規制が存在しないのは日本くらいのものだろう。ヨーロッパではヘイトスピーチに対して刑事罰を設けている国がほとんどだ。

米国ではヘイトスピーチに関しては日本同様「表現の自由」を理由に法的規制はないものの、公民権法やヘイトクライム判決強化法などにより、ヘイトクライム犯に対して通常の犯罪の刑罰より反則レベルを3段階厳しくし重い刑を適用するよう法整備がされている。

私もジュネーブで行われた国連人種差別撤廃委員会の日本審査を傍聴したが、各国委員がそろって「法整備」を求めるなか、「わが国には法整備を必要とするような深刻な差別はない」「表現の自由を守らなければならない」と頑強に"抵抗"し続ける日本政府代表団の"孤立"ぶりが印象に残っている。

いずれにせよ、こうした国内外の圧力が在特会の衰退を促したことは間違いない。

朝鮮学校への補助金を打ち切り、「差別的」と批判されることの多い、あの橋下徹大阪市長でさえ、2014年10月20日に行われた桜井誠・在特会会長(当時)との会談では、「差別主義者!」と桜井を罵った。

この会談は、まさに罵倒の応酬に終始したが、在特会の醜悪さがテレビを通じて全国に知れ渡ったという点で、画期的だったとも言える。

ちなみにその2ヵ月後、桜井は突然に在特会会長の座を降りた。

同会の設立以来、8年にわたって会長を務めてきた桜井の「引退表明」は様々な憶測を生んだ。桜井自身は「組織のトップが替わらないと新陳代謝ができない」ことを引退の理由としたが、会員のなかでもそれを額面通りに受け止める者は少ない。

「政界進出を目指している」

「金をめぐるトラブルで会員の反発を呼んだ」

「彼女ができたらしい」

そんな噂話をわざわざ私に吹き込んでくる会員も一人や二人ではなかった。

西日本在住の支部幹部は「伝え聞いた話だが」と前置きしたうえで次のように話した。

「要するにヘイトスピーチ批判をはじめとする社会的圧力への対応だと聞いています。橋下会談などで確かに『桜井誠』の知名度は上がりましたが、同時にヘイトスピーチの代名詞のように会が世間から認識されてしまっているのが現状です。

イケイケ路線を突っ走っているように見えるかもしれませんが、実は昨今の露骨なヘイトスピーチが嫌で活動から離れる会員も後を絶たない。世間からの批判を恐れて機能停止状態にある地方支部も少なくありません。

桜井さん自身もそうした状況に危機感を持っているのですから、本来ならば自分で軌道修正を図ればよいのですが、それでは会を支えてきた強硬派の会員が納得しない。

そこで新しい顔を立てることによって、世間のイメージを変えていきたいといった思惑があるようです」

もちろん、在特会から桜井が抜けたくらいでイメージを一新できたわけがない。動員力が落ちたとはいえ、いまなお在特会は醜悪なデモを繰り返しているし、当然ながら「ヘイトスピーチ」が消えたわけでもない。

だが、組織としての在特会が、もはやかつてのような求心力を失ったことだけは確実だ。