「差別」「排斥」はニッポンの娯楽になってしまったのか?

そしてヘイトスピーチが日本を侵食する
安田 浩一 プロフィール

同市議会は2014年9月19日、社会的マイノリティへの差別を禁止する新たな法整備を求める意見書を賛成多数で採択し、衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣、法務大臣宛てに「ヘイトスピーチ規制」を求める意見書を提出した。

「なぜ在日のためにそんなことをするのか!」

提案者のひとりである上村和子市議は、私の取材に対して次のように答えた。

「マイノリティが安心して暮らせるような社会を作ることも行政の大事な役割。その使命を放棄したくなかった」

上村はニュースや新聞記事でヘイトスピーチの現状を知り、それがきっかけで差別問題に関する学習会などに足を運んだ。そこで京都朝鮮学校襲撃事件の映像や差別デモの様子を写した動画を目にした。

「一部の人間による、特別な事件なのだと考えることができなかった。これは社会の問題であり、また地域の問題だと思ったんです」

素案をつくり、自民党から共産党まで、すべての同僚議員を説得してまわった。反対する者はいなかった。「みんな、わかってくれるんだ」と安心した。だが採択が決まり、それが報道されると、今度は非難の声が上村に寄せられたのだった。

「なぜ在日のためにそんなことをするのか!」

「ヘイトスピーチを規制する必要なんてない!」

「在日は嫌われて当然なんだよ!」

上村の自宅に抗議電話が相次いだ。市役所にも決議を非難する声が電話やメールで届けられた。上村はすさまじい抗議の嵐に一瞬たじろいだというが、それでも筋は曲げていない。

「被差別の当事者であれば、もっと激しい罵倒もされるのだろうと思うと、落ち込むわけにいかなかったんです。ますます当事者の思いが理解できるようになりました」

結果、国立市の動きは全国に知られるようになり、ヘイトスピーチ対策を求める自治体決議が全国に広まっていくことになる。

15年夏の通常国会でもヘイトスピーチへの懸念から、包括的な差別禁止法案が野党から提出された。自民党の一部から強い反対があったため、現在も継続審議のままだが、「ヘイトスピーチの危険性」が国会内で議論されたことは前進だ。

また、14年夏に開催された国連人種差別撤廃委員会において、日本に対し「ヘイトスピーチ」規制の法整備を求める「総括所見」が発表された意味も大きい。

「総括所見」は次のように述べ、毅然たる措置をとるよう日本政府に勧告を行った。

〈外国人やマイノリティ、とりわけコリアンに対する人種主義的デモや集会を組織する右翼運動もしくは右翼集団による切迫した暴力への煽動を含むヘイト・スピーチのまん延の報告について懸念を表明する。

委員会はまた、公人や政治家によるヘイト・スピーチや憎悪の煽動となる発言の報告を懸念する。委員会はさらに、集会の場やインターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチの広がりと人種主義的暴力や憎悪の煽動に懸念を表明する。また、委員会は、そのような行為が締約国によって必ずしも適切に捜査や起訴されていないことを懸念する〉