芸能界最高の脇役・岸部一徳が体現する「2番手以下の生き方」

やっぱり、この男は面白い
週刊現代 プロフィール

あの米倉が魅了されてしまう男・岸部は先月22日にスタートした向井理主演のドラマ『遺産争族』(テレビ朝日系)では、葬儀屋の社長・河村恒三として、向井をいびる役を演じる。同番組スタッフが明かす。

「プロデューサーの間では『一徳さんはドロドロの、嫌われる役が大好きな人』と言われていて、一徳さん自身も『今回はドロドロのえげつないオヤジだ』と、現場でご機嫌なんです。

共演者の伊東四朗さんは、一徳さんが若い頃から注目し、半世紀ほど前に一世を風靡したバンド『ザ・タイガース』にいた一徳さんと今を比べ、『あの頃の面影は全然ないね』と笑っていた。一徳さんも『すっかり消えてしまいました』と苦笑いを浮かべていましたよ」

出過ぎた真似はしない

若き日の面影が消えても、岸部はザ・タイガースで過ごした日々が、俳優としての「味」につながっている。京都市立北野中時代に知り合い、その後、ザ・タイガースでも一緒に活動した、瞳みのるが明かす。

「タイガースでも、1番手は沢田研二で、サリー(岸部の愛称)は2番手以下だった。でも、彼は2番手以下の生き方を知っている。サッカーにたとえれば、シュートを打つFWではなく、アシストをするMFです。

男が5人集まれば、けんかもありますが、彼は自分を主張することなく聞き役に徹していました。サリーは出過ぎた真似をしないので主役にとっては、『自分の座を奪われることはない』という安心を感じられる存在なんです」

ザ・タイガースは約4年活動し、岸部が24歳のときに解散。その後、沢田や萩原健一らと結成した「PYG」、「井上堯之バンド」で、より高い音楽性を追求したが、自己評価が厳しかった岸部は、音楽の才能に自信をなくし、ミュージシャンをやめた。俳優業に転身したのは28歳の時だった。瞳が続ける。

「タイガース時代に、僕はサリーと一緒に、タイガースを描いた映画にも出演しています。自分で言うのは恥ずかしいのですが、その映画を見てくださった演劇関係者の方は当時、私の演技をほめてくださった。一方で、『岸部は(下手で)見ていられなかった』とこぼしたんです。彼が音楽をやめた後、俳優の道を選んだことは意外だと感じました」

ザ・タイガースで映画出演したときは「大根役者」のレッテルを貼られた男は、43歳で出演した小栗康平監督の映画『死の棘』で、主役の松坂慶子と暮らす元特攻隊の小説家を演じ、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。15年間、苦労を重ね、一流の俳優になる階段をのぼっていった。