もし妻が認知症になったら---「徘徊」「失禁」「暴言」。目の前の現実を、あなたは受け止められますか?

大山のぶ代の夫・砂川啓介が問う
週刊現代 プロフィール

介護によって再確認できる「夫婦の愛」

妻のために、ただひたすら耐える日々――そんな砂川を救ってくれたのが、60年来の親友である俳優・毒蝮三太夫だった。

「啓介に奥さんの病状を公表したほうがいいと勧めました。老老介護を甘く見るなと。このまま一人で抱え込んでいたら啓介のほうがまいっちまう。もしお前が倒れたら誰が彼女の面倒をみるんだと諭しました」

勇気をもって公表したことで、砂川の心境にもある変化が表れた。

「公表したことで『もう皆に嘘をつかなくていい』という安堵感と同時に、自分自身が、カミさんの認知症を素直に受け入れられたように思う。今振り返ると、僕は、彼女の認知症と真正面から向き合っているようで、どこか目を逸らしていたのかもしれない」

16年にわたり、認知症の妻を介護してきた元会社社長の里村良一氏(84歳)が語る。

「もし妻が認知症になったら、できるだけ早く誰かに相談したほうがいい。一人で抱え込んではいけません。認知症は恥ずかしいことではないし、公表することで周りの人が助けてくれます。実際、私もそうでした。近所の人やケアマネジャーなどが妻のサポートをしてくれたおかげでなんとか乗り越えることができました」

前出の津止氏も続ける。

「男性介護者は、SOSを出すのが苦手なんです。世間体を気にして、誰にも相談せずに、自分一人で頑張る『隠れ介護』に陥る傾向が強い。目標を立てて何とか治そうと介護をする男性が多いのですが、介護は必ずしも結果が出るものではありません。それに絶望して不幸な結末を迎えてしまうケースが後を絶たない。

介護殺人や無理心中などの7割が男性なのもそのためです。最悪の結果を招かないためにも、介護は劇的に治すものじゃなくて、『ゆっくりと向き合うもの』だと、気づくことが重要です」

確かに介護は、精神的にも肉体的にもきつい。だが、介護によって夫婦の関係を再確認することができたと、前出の里村氏は言う。

「妻は昨年亡くなったんですが、最期の時は私と二人きりで過ごしました。妻はもう何もしゃべれなくなっていましたが、その時間はなんとも言えない充実した時間でした。いろいろ苦労も多かったけど、その時やっと夫婦として心が通い合えたような気がしましたね」

現在、砂川は毎晩寝る前に欠かさず行っている儀式がある。それは妻を抱きしめること。大山は両手を大きく広げてドラえもんのような笑顔でハグを求めてくる。

〈 今だから明かせるが、僕は当初、彼女のこの"行動"に戸惑いを隠せなかった。だって僕たちは、これまで長年にわたり"触れ合わない夫婦"だったからだ。

結婚から半世紀を経た今になって、毎晩、ギュッと夫婦で抱きしめ合うようになるなんて。この年になって初めて、夫婦のぬくもりを今、痛切に感じている気がする 〉

妻が認知症になり、介護が必要になる――。それは長い戦いの始まりであると同時に、「愛の確認」を迫られる時なのかもしれない。

「週刊現代」2015年11月14日号より