もし妻が認知症になったら---「徘徊」「失禁」「暴言」。目の前の現実を、あなたは受け止められますか?

大山のぶ代の夫・砂川啓介が問う
週刊現代 プロフィール

逃げられるものなら、この生活から逃げたい

感情を上手にコントロールできないのも認知症患者の特徴だ。大山も急に怒りだし「暴言」を吐くことが増えた。

温泉旅行で砂風呂に入っていた時、突然「何すんのよ!」、「この人、私の写真を撮ったのよ」と一般客に言いがかりをつけたり、砂川と一緒に商店街を歩いていると、すれ違いざまに通行人に触られたと思い込み、突然大声を上げることもあった。そのたびに、砂川は頭を下げ、大山を連れて逃げるようにその場から離れた。

認知症を患うと「衛生面」に対しても無頓着になる。大山の場合はまず、極端に風呂を嫌うようになった。砂川が何とかして風呂に入れようとしたが、大山は「もう入った」と言い張り、頑なに拒否した。

入浴以上に砂川の頭を悩ませたのが「トイレ」だ。

〈 ある夜、2階に上がろうとすると階段の踊り場に黒いものが点々と落ちていた。ゴミ屑か何かだろう。思い切り踏んづけたその瞬間「グニャリ」とした感触が足元を襲った。

ん? これはゴミじゃない。よくよく見ると、なんと人間の大便ではないか。すぐに、ペコがしてしまったのだろう……と理解できた 〉

だが本人は「知らないわよ、あたしじゃないもの!」と言ってまったく覚えていない。もしかして粗相をしてしまったのかもと、顧みようとするそぶりさえない。

砂川は、床についた便をふきとりながら、「いったい何をやっているんだ俺は……。こんなことが毎日続くのだろうか」と自問自答を繰り返したという。

妻がおかしな行動を取るたびに、なんとか理解させようと、砂川は必死になって説明を繰り返したが、そうすればそうするほど、妻は意固地になり「私は間違ってない!」と怒り出した。意思の疎通が取れない苦悩を砂川はこう吐露している。

〈 逃げられるものなら、この生活から逃げたい。でも、僕はカミさんにとって、たった一人の身内なのだ。

「俺が頑張らなきゃいけないんだ……」

強く自分に言い聞かせるたびに、僕は自分で自分を追いつめていた 〉

精神はすでに限界を迎えつつあった。それでも妻が認知症であることを世間に隠し続けた。その理由について砂川は「彼女のイメージを崩したくなかった」と語っている。