もし妻が認知症になったら---「徘徊」「失禁」「暴言」。目の前の現実を、あなたは受け止められますか?

大山のぶ代の夫・砂川啓介が問う
週刊現代 プロフィール

立命館大学教授で男性介護ネット事務局長の津止正敏氏が語る。

「夫が妻を介護するのは、妻が夫を介護するより苦労が多い。なぜならほとんどの男性は妻なしで生活する準備ができていないからです。コーヒーすら自分で入れたことがない、通帳の置き場所や暗証番号も知らないなど、今まで家のことはすべて奥さんに任せきりにしてきた人にとっては、あまりにも負担が大きい。

掃除、洗濯、料理をこなすのは想像以上に大変で時間も取られるし、何より認知症の場合は、できるだけ側に居て見守っている必要があります。そのため仕事もセーブしなければならないので経済的にも負担を強いられるケースがあります」

認知症を患った人は、それまでなら考えられないような行動を取ることが頻繁に起こる。

その一つが「徘徊」だ。大山も突然家を飛び出し、行方が分からなくなってしまうことがあった。

「何か事件に巻き込まれたりしていないだろうか」

仕事中も、砂川は気が気でなかったという。

〈 ところがカミさんは、僕たちの心配をよそに、何食わぬ顔で帰ってきたそうだ。しかも、タクシーに乗って、きちんとお金を払い、自分で玄関のロックの暗証番号を押して 〉

砂川が心配して問いただしても、大山は「分からないの……」と繰り返すばかりで、自分がどこに行っていたのか、まったく思い出せない。一見、日常生活は不自由なく送れているように見えても、5分前のこともまるで覚えていない。

妻の行動がまったく予想できない

あわや大惨事に発展しかねない「事件」もあった。

「ペコが料理をしている時、何かが焦げたような嫌な臭いがするので、台所に行ってみると、鍋を空焚きしているんですよ。慌てて火を止めたのですが、カミさんはその横で平然と野菜を切っていた。焦げている鍋の煙にも、臭いにも一切気づいていないんですよね。

書類などを保管しているリビングの引き出しに料理を詰めたタッパーが入っていることもありました。それを見つけた時には、さすがにショックで言葉が出ませんでしたね」(砂川)

それ以外にも、電気をつけたらつけっ放し、冷蔵庫の扉もずっと開けっ放し、Tシャツを裏返しに着ても気にしない。薬の飲み間違いはもはや日常茶飯事だった。

今まででは考えられない妻の行動について砂川は「彼女の病気のことを理解しているつもりでも、こうした目の前で起こる日々の異変に、感情が付いてこないことがしばしばだった」と複雑な胸中を語っている。

元群馬県議会議員で、現在も認知症の妻を介護している大沢幸一氏(72歳)は、認知症介護の苦労をこう語る。

「介護する夫にとって、一番不安なのは、妻がどんな行動をするか分からないことなんです。私も妻が認知症になった時、インターネットなどでかなり調べたつもりでしたが、実際の行動は私の予想を超えることが多々ありました。

また、男性介護者が最初にぶつかるのが食事の世話です。今まで料理をしたことがない人は、味付けからしてどうしていいか分からない。

妻の衣類を全部自分が買ってこないといけないのも、思いのほか大変でした。特に下着を買うのは勇気がいります。女性の下着売り場に男性が一人で居たら、当然、白い目で見られますからね」