これは国家による子どもたちへの「虐待」だ! 施設で育った子が抱える見えない病「愛着障害」

徳 瑠里香 プロフィール

「もう、本当に意味がわからないですよ。でも、彼ら・彼女らのせいではなく、環境がそうさせてしまっているんです。日本の制度や大人のエゴで、人を苦しめて自らも苦しんでいる子どもたちがいるなんて、本当におかしな話。

でも、施設の職員たちと話をすると、そういう症状を持つ子どもたちは珍しくないと言う。感覚が麻痺しているのかな。里親を始めるまではその現実が見えていなかったけれど、知ってしまったからにはやっぱり何もせずにはいられないですよ」

反応性愛着障害

美穂さんが接してきた子どもたちが見せた症状は、「反応性愛着障害」によるものだという。反応性愛着障害とは、なんらかの原因で生まれてから5歳までに母と子における愛着の絆が十分に結べないことにより、人格形成の部分で起きる障害のこと。

社会福祉学博士で臨床ソーシャルワーカーのヘネシー澄子氏は『子を愛せない母 母を拒否する子』のなかで、その特徴やADHDとの見分け方などについて詳しく述べている。

愛着障害を抱える子どもは、自分のイライラや不満を抑える力に欠け、泣き出したらなかなか泣き止まず、衝動にまかせて走り回り、じっと座ったり静かに寝たりしていられない。

自己尊重がきわめて低く、人を信用しないため対人関係が築けない。自分を愛そうとする人に極度に抵抗し、見ず知らずの他人には恐怖心なくうわべだけの愛嬌などをみせる。

ほかにも極端な好き嫌いや拒食症だったり、物を壊したり、さまざまな症状が出る。

愛着障害を引き起こす原因としては、胎児期における母親の飲酒、喫煙、薬物常用などで脳形成に影響を与えてしまうこと、出生後、未熟児や病気による長期入院などで母親がそばにいられなかったこと、母親が精神的な病気などにより愛情を注げなかったこと、母親の病気や失踪、虐待やネグレクト、母親以外の不特定多数によって養育されたことなどが挙げられる。

愛知県の社会福祉士・矢満田篤史氏が実体験をレポートした『見えなかった死』によれば、里子として里親に委託された、愛着障害を抱える子どもは次のような行動の経過を辿るという。

第一段階として、大人の顔色をうかがい、嫌われないようにおりこうさんでいる。第二段階では、嫌われるような行動をして里親の出方を試す(試し行動)。第三段階では、捨てられないことを確認すると赤ちゃんのように甘えてくる(赤ちゃん返り)。

まさに怜ちゃんもその過程を辿った。複数の子どもを限られた職員で世話をする乳児院や児童養護施設では、実際の親子のような1対1の関係を築くことは難しい。幼い頃に十分な愛情を注がれなかったがために、施設で育った子どもたちが反応性愛着障害を抱えるケースは多いという。

「症状の重さには差がありますが、根っこの行動様式は同じだと思います。愛されたいしかまってもらいたいんだけど相手を試すように、人の神経を逆撫でするようなことを言い続けたり暴れたり、嫌われるようなことをする。

甘えるときに甘えてないから、赤ちゃん返りも激しくおさまらない。赤ちゃんになったり、大人になったり、なんていうのかな。愛情を得ようとする手練手管、注目を集める知恵が生きる術として身についているというか……」(美穂さん)