3位の『アンドロイドお雪』も、受験勉強もせずに本ばかり読んでいた中学生の頃に読んだ本です。
最初は立ち読みしていたけれど、あまりにも面白いので買ってしまいました。この本に寄せた解説で、作家の川又千秋さんが〈「純文学は十五の少年にも書けるが、エンターテインメントは大人にしか書けない」というまことに明快なセオリーを教わった〉と書かれていたのが、なぜか強く心に残りました。
この言葉は、書き手になったいま、「大人の鑑賞に堪えるものを書かなければ」という、自分への戒めにもなっています。
読んだ年齢がいきなり30歳まで飛ぶんですが、4位の『セラフィムの夜』は、大人になってから、「ああ、やっぱり小説って面白いな、私も何か書きたいな」と思って、書き手としてのスタートラインに立たせてくれた本。
著者の花村萬月さんが芥川賞受賞時のインタビューで「10年やれば何かになるだろうと思っていた」と言われたと知って、私も10年間は頑張って書こうと決めたんです。
当時、私は赤ん坊を抱えていました。そんな状況も、決して居心地が悪かったわけではないんだけれど、何かもうひとつ、自分にしかできない仕事が欲しいと思ったんですよね。
やっぱり人って、家族以外の人にも認められたい、という欲求を持つものなんじゃないでしょうか。それで、両手が空くよう子供をおぶって、灯油缶の上に裏の白いチラシを置き、あれこれ書き始めたんですね。
今でも、私にとっての読書は「秘密」。内緒でする行為という気がします。とくに、親と読んでいる本を共有するほど、恥ずかしいことはないと感じますね(笑)。だって、自分の頭の中を覗かれているみたいでしょ。
(構成/大西展子)
***
▲桜木紫乃さんが最近選んだ一冊
『颶風の王』
河崎 秋子著/KADOKAWA 1600円
「6世代分もの物語が盛り込まれると聞き、やり過ぎだと思っていたのに、冒頭の『嗚咽が積もった雪へと滲みた』という一文から一気に心を掴まれた。世代を超え馬と関わる家族の物語は、酪農家でもある著者ならではの快作」
=> Amazonはこちら
=> 楽天ブックスはこちら