ノーベル物理学賞・梶田隆章「地の底でトロッコに乗った下積みの日々」

独占インタビュー60分!
週刊現代 プロフィール

重さを持つ物は、その重力によって周りの空間を歪めます。その物体が激しく運動をすると、空間の歪みも揺らぎ、波のように伝わっていく。これを重力波と呼んでいるのです。でも、この重力波の振幅は非常に小さいので、検出するのは困難を極めます。

重力波はニュートリノとは違う全く新しい宇宙を見る目。重力波の検出により、これまでの望遠鏡では観測できなかったブラックホールの誕生の瞬間なども捉えることができるようになる。

また、これは宇宙線研究所全体での目標でもあります。'90年代の半ばから、重力波観測をスーパーカミオカンデに続く、研究所の基幹研究と位置づけ、技術開発研究を進めてきました。現在では、同じ神岡の地に、大型低温重力波望遠鏡『KAGRA』を建設するプロジェクトが進行しています」

KAGRAは世界トップクラスの感度を持っているが、アメリカやヨーロッパでも重力波観測装置の開発が進んでおり、近いうちにKAGRAと同レベルの性能を持つことになるかもしれない。

「一番をとることも重要なのですが、全天をカバーするためには性能の良い観測装置が一つあるだけではいけません。最低3台のレーザー干渉計のデータが必要になります。それも大きく離れた場所に3台あるのが理想的です。つまり、日本、アメリカ、ヨーロッパ、この3台が互いに協力して観測する必要性が近いうちに必ず出てきます。『国際競争』ではなく、『国際協力』しないと次の段階へは進めないところまで来ているのです」

意外にも身長は183cmもある梶田教授。笑顔でニュートリノ振動について説明してくれた〔PHOTO〕gettyimages

税金を無駄にはできない

'09年には、スーパーカミオカンデは事業仕分けにより予算削減の対象とされていた。そうなれば測定器の質の低下は免れず、一度落ちたものを戻すには10年以上の年月が必要となっただろう。そのような危機にあいながらも、梶田教授は粘り強く研究を続けた。

「日本で研究ができて良かったと心から思います。終戦後、何もできない状況から、奇跡の高度成長を遂げたからこそ、今では基礎研究にも力を入れられるようになった。カミオカンデのような大きい施設の建設には、国民の皆さんの税金を使わせていただいている。それを受け入れてくれる心がなければ、絶対できませんでした」

小柴教授はかねてから、学生に対し「おれたちは国民の血税を使わせてもらって、夢を追っているんだ。だから業者の言い値でモノは買うな。国民の税金を無駄にしたら申し訳ない」と繰り返し言っていたという。その教えは梶田教授にも受け継がれている。

「宇宙線研究所は施設も大規模ですし、グループも大人数です。自分のやりたい研究だからというだけで、簡単に装置が作れるわけではない。その装置がいかに重要かということを、時間をかけて広く知ってもらい、ようやく予算がつきます。宇宙線研究所長という立場に立たせてもらって、改めて組織の難しさというものも感じています。

もちろん今でも、現場に愛着はあるので、昔のように研究をしてみたいという思いはあります。でも、これまでずっと研究の楽しさや新しい発見の喜びを味わわせていただいてきた。今度は私が若い人たちにそういう場を提供することが、恩返しだと思っています」

「週刊現代」2015年11月7日号より