「モノを買わない」先進都市から読み解く、「資本主義の先」の世界の行方

編集者・菅付雅信さんが語る『物欲なき世界』
佐藤 慶一 プロフィール

都市でのオーガニック生活には矛盾が生じる

――そこでポートランドのような先進事例を見る必要があるというわけですね。

菅付:ポートランドも資本主義のルールのなかにありますが、オーガニックかつローカルを大事にする考え方に特化することで勝負しています。その特徴は一言で言えば、前著のキーワードとなった「コンフォート(本質的だからこそ心地が良い)」という言葉に集約されます。

自分たちのこだわりのもち、オーガニックで質のいいモノを全米、そして世界中に売っていく。そのものすごいこだわりがブランドになっているんです。そんなポートランドにも悪い面が出てきつつあります。住みたい都市として若者の移住が増えていますが、実はそれほど仕事がなくて大変みたいです。ただ、人が移住してこない日本の都市部よりはいいと思います。移住者がいないということは外の人にとって魅力がないとも言えますからね。

――ポートランドのあり方はどんな部分が参考にできるでしょうか?

菅付:オーガニックで信頼できるモノをつくっていることです。「いかに安くするか」「いかに大量生産するか」というのは少し前までは有効な価値観でしたが、モノにあふれた世界において感度のいい消費者たちは自分たちにとって質のいいモノを求めています。

質がいいことは必ずしもラグジュアリーであるとは限りません。ポートランドでは、自分が身につけたり、口にしたり、手元に置くモノは、なるべくいい素材を使って、華美でなく、長く使えるモノを選ぶようになっているんです。

ポートランドの人たちは、そういったこだわりに特化することで世界におけるブランディングを高めています。ローカルにこだわりながらも、グローバルな市場で勝てそうな価値観を徹底し、消費者と向き合う。そんな姿を東京も見習うべきだと思います。

――東京のような都会でも、オーガニックな価値観を軸にしたお店や取り組みは増えているように思います。

菅付:たとえば本のなかで、ユニクロに新卒入社したバイ・ビンさん(1987年生まれ)が紆余曲折の末、学芸大学駅近くにオープンしたオーガニックのグローサリー・ストアについて取り上げています。彼は「理想のある中途半端をやるしかない」という言葉を残してくれました。

要するに、都市でオーガニックに生きるにはどうしても矛盾が生じてしまう。そこを理解しながら実践することがとても大切なんです。

徹底的にオーガニックな生活をしようと思ったら、田舎に移住したほうがいいけれど、なかなかそうはできない。なぜなら日本人の大多数は都市人口に入るので、都市のなかで中途半端にオーガニックな生活を追求するしかないんです。

なぜシェア志向が広がったのか

――都市部の話でいえば、シェアリングエコノミーにも触れられています。たとえば、UberやAirbnbはどちらも法律的にグレーなところを突いていますが、これは新しい制度へシフトする前兆と捉えることもできそうです。

菅付:シェアリングエコノミーに関するサービスはどれも新しい提案ですよね。ぼくは新しいビジネスは半分パイレーツビジネス、既存の枠組みのグレーゾーンを攻めているものだと思っています。この9月にニューヨークに行ったときにもAirbnbを利用しましたし、ロサンゼルスに行ったときにはUberを使いました。

――このようなシェアリングエコノミーの背景にあるものはなんでしょうか? 

菅付:シェア志向の背景にはいい理由と悪い理由があります。ネガティブな理由は、お金がないことです。特に先進都市では住居費が跳ね上がり、ロンドンの家賃がひと部屋あたり平均40万円、ニューヨークは平均48万円です。これでは一人で借りられないですから、シェアが当たり前になり、一人あたりの住居空間は減ってきています。

だから残された選択肢は、シェアするか遠方から通うかのどちらか。経済的な理由から、シェアやコミュニティ化が進んでいるのです。気が合う人と集まり、いろんなモノを仲良くシェアしていかないと大都市では暮らしていけないという冷徹な事実がありますから。

シェアが広がった背景にあるプラスの理由はなんですか? 

菅付:ポジティブな理由は、収入や肩書きよりも価値観を共有するコミュニティへの所属にプライオリティを置く人が増えていることです。アメリカで見たなかでおもしろいのは、大都市にはフードコープ(生協)があること。より市民運動的であるのが日本の生協と違うところです。

たとえば、ニューヨークにパークスロープ・フードコープという有名な生協のスーパーがあります。ここは特に食材の選別が厳密で、ベスト・オブ・ニューヨークが集まっている。オーガニックなモノに絞り、自分たちで仕入れた食材でも第三者チームによる抜き打ち検査をしているくらいです。絶対にいいモノでないと置けない、販売できない仕組みをつくっています。

パークスロープ・フードコープの様子〔PHOTO〕gettyimages

さらに、ニューヨークにしてはかなり安価なので大人気なんです。ただ、ここで買い物をするには会員にならないといけません。そのためには会員資格の審査があり、過去の経歴を検索されたうえで評価されます。

そして、身分にかかわらず、月に3.5時間以上の労働が義務付けられている。つまり、消費者が働くことで安価なオーガニック食材が提供できているんです。

ほかのモデルでは、ポートランドにあるピープルズ・フードコープ。これはもっと市民運動的で、容器はムダだから、ほとんどの食材が量り売りになっています。自分で袋を取り、食材を測ってラベルを貼り、レジまで持っていく――。自分の家から容器を持ってくるとそれだけ安くなります。

資本主義の次には、こういうエコロジカルで相互扶助的な価値観が豊かであり、幸せだと思うようになっていくのかもしれません。

やっぱり、20世紀の延長線上にある幸福論は消費と強く結びついているため、だんだん有効ではなくなっています。だから、ぼくはこの本で新しい制度のなかでの豊かさ、次の幸せを考えることにしたんです。