長渕剛の『乾杯』を語ろう〜バブルの裏側をとらえた愚直な応援歌、大ヒットの理由

神山典士×田家秀樹×柳井満
週刊現代 プロフィール

神山 '80年代半ばから'90年代あたまにかけて、長渕さんの作家性が強まってきた頃です。田舎から東京に出てきて、這いつくばって生きていこうという、長渕剛の軸となるテーマが、作品に色濃く出てきている。

その意味だと、『乾杯』の他にも、好きな曲があるんです。今でもカラオケでよく歌うんですが、「せっせせっせと東京の人になる」という一節があって。

田家 『東京青春朝焼物語』('91年)だ。

神山 はい。モノを書く仕事をしている立場からしても、この言葉の生身の重さはなかなか書けない。当時、武道館でこの曲を聞いた帰り途にも、打ちひしがれていました。

田家 そういう、東京で必死に生きる人たちの代弁者、象徴という意味での長渕剛を決定的にしたのが、同郷の友への思いを歌った『乾杯』だったんです。

神山 もともと'80年のアルバム『乾杯』に入っていた曲が、セルフカバーされ、シングルとして発売され大ヒットしたのが'88年。昭和の終わり、日本がバブルで沸き返る時代です。マハラジャとかが盛り上がっていた。

柳井 そうか。'88年というと、長渕くんに主演をお願いしたドラマ『とんぼ』が放送されたのと同じ年ですね。

田家 主題歌の『とんぼ』も同年に大ヒットしましたね。『乾杯』と『とんぼ』は、曲の性格は違うけれど、どちらもバブルの裏側をとらえていると思うんです。

『とんぼ』は、バブルに浮かれる人を横目に、居心地が悪いと思っている人たちの救いの歌になった。そして『乾杯』は、軽薄短小な消費社会に突き進むなかで、人々が忘れていた人の絆とか、本質的なものを訴えた。

いつだって真剣だった

神山 ファンとして、私は長渕さんのドラマ出演は嬉しかったですね。最初からゲストではなくいきなり主役でしたし、『とんぼ』で、虚飾に塗れた時代に力強く生きる英二はとにかくかっこよくて、存在感もあった。

田家 私は歌手がドラマに出ることに必ずしも肯定的ではないんですが、長渕さんはドラマをやって表現の幅が広がった。芝居をやったことで次のステップに進んだ歌手といえば、長渕剛と福山雅治だと思います。

柳井 長渕くんとは'83年から『家族ゲーム』を2期、『親子ゲーム』('86年)『親子ジグザグ』('87年)『とんぼ』と5作やりました。主題歌もすべて長渕くん。

長渕くんの前にも、『3年B組金八先生』の武田鉄矢など、歌手をドラマに起用した作品がヒットしていました。歌手の個性が、ドラマにうまくハマると面白い。