中国日本人拘束「スパイ疑惑」の余波〜官僚たちが踏み入れた冷酷な「諜報戦」の行方

公安を知り尽くした男が明かす、スクープルポ第二弾!
竹内 明 プロフィール

日本には「手駒」がない

冷戦時代から現在に至るまで、米ロ間では緊張を高めぬために、互いに捉えたスパイを受け渡す「スパイ交換」が行われ、多くの諜報員たちが拷問から逃れ、命を救われた。

だが、インテリジェンスの世界では「等価交換」が原則だ。中国の情報機関員を捕らえたことのない日本に、交換できる「手駒」は存在しないという現実がある。これでは、日本政府側としては、スパイを送り込んだことを否認して「知らぬ、存ぜぬ」を貫き通すしかない。

「身内にモグラがいるうえ、捕まった協力者は助ける努力もせずに使い捨て。これじゃあ国のために協力しようと言う者はいなくなる。情報機関というハコを作っても無意味だ」(警視庁公安捜査員)

今後、日本政府がヒューミント(人的諜報)を強化すれば、日本の情報機関員が敵に取り込まれるリスクは高くなるし、協力者の取り扱いをめぐる人道上の問題は付きまとうことになるだろう。

日本には、我が身を危険にさらした協力者に永住権を付与したり、刑を減免したりする法整備も整っていない。与える「飴」もなく、忠誠心だけを求めるのは限界がある。

省益争いを繰り広げる官僚たちは、冷酷な諜報戦の世界に足を踏み入れることを覚悟しなければならない。

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竹内明 1969年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、1991年にTBS入社。社会部、ニューヨーク特派員、政治部などを経て、ニュース 番組「Nスタ」のキャスターなどを務めながら、国際諜報戦や外交問題に関する取材を続けている。公安警察や検察を取材したノンフィクション作品として 2009年『ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日』、2010年『時効操作 警察庁長官狙撃事件の深層』。2014年の前作『背乗り』は小説デビュー作にもかかわらず、好評につき増刷を重ねた。