作家・福井晴敏さんの「わが人生最高の10冊」

核融合のように、今の私を作った本
週刊現代 プロフィール

枠を突き破る漫画の面白さ

続く『リヴィエラを撃て』は、スパイ・サスペンスですが、僕の中での高村作品ベスト1。

日本から英国まで舞台が広がっていくスケールのでかさと、高村文体の魅力が存分に発揮されている。

地を這う虫』は、僕がデビュー後に初めて短編小説の注文を受け、四苦八苦していたときに読んだ本です。

日本人が一様にうつむき加減になっている、バブル崩壊の頃の心境を映し出している。侘しさがいいんですよ。表題作は、守衛をしている元警官がアパートと工場を往復するだけの生活の中で次第に事件に入り込んでいく物語。判で押したような生活ではあるんですが、初老の元刑事の人物像を徹底して細部まで作りこんで描いている。人物に寄り添えば、こんなに面白いものになると感服させられました。

トム・クランシーの『いま、そこにある危機』が斬新なのは、アクションを数字で描いたことです。たとえば、爆弾について秒速462メートルの爆風と書く。兵器の威力を細かな数値で表すことで、「その場にいたら確実に粉々になっている」と想像させる。シーンを数値で表現する手法を編み出したパイオニアだと思います。

映像で見る以上に、数字の衝撃は絶大で「こんなにエゲツない兵器を作っちゃいかんだろう」というふうに反戦気分をもたらしますね。

ここからあとは漫画です。『パタリロ!』は、小学5年生のときにクラスの女子から「福井クンだったら、この面白さがわかると思う」と言われたのがきっかけで、本屋さんで立ち読みしたら、ハマったんですよ。以来、90巻を超えた今も買い続けています(笑)。

画風がおどろおどろしく、ギャグにも国際政治を取り込んだりしているのがアバンギャルド。女の子には後に「よく教えてくれた」と言いました。

手塚さんの『アドルフに告ぐ』は、ヒットラーの出生に絡んだ秘密をめぐる日本とドイツを舞台にした壮大な話ですが、『火の鳥』と並んで漫画がハードカバーで出版された最初期の漫画本だったと記憶しています。漫画で、こんな大河ドラマのようなことがやれちゃうんだということにびっくりしましたね。

最後の『閃光のハサウェイ 機動戦士ガンダム』。スペース・コロニーに暮らす貧しい人たちが自治権を要求して叛乱を起こす。地球が「善」、叛乱軍は「悪」とされる世界観の中で、本作はテロリスト側の視点に立って書かれていて、ガンダム・シリーズでもファンの間で賛否の分かれる、異端の物語です。じつはいつかアニメ化したいと思い続けているんですよね。

(構成/朝山実)

ふくい・はるとし/'68年東京生まれ。'98年『Twelve Y.O.』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『亡国のイージス』で日本推理作家協会賞、『終戦のローレライ』で吉川英治文学新人賞等を受賞。最新作に『人類資金7』(講談社文庫)

* * *

▲最近読んだ1冊

地球へ…』(全3巻)
竹宮惠子著/中公文庫 第1巻686円

「地球が荒廃し“ミュウ”と呼ばれる新人類を恐れ抹殺しようとする未来社会を描いた漫画。新作アニメーションの準備のために'70~'80年代のSF作品を再読しているんですが、この作品は日本人が描くSFの極致ですね」

=> Amazonはこちら
=> 楽天ブックスはこちら