なんだって? 現代人には「足腰」がない!?
〜武術家・光岡英稔が知る身体観

独占・最強インタビュー(2)
光岡英稔, 尹雄大

 生活環境と身体観のつながり

−−日本の場合、武術によっては数百年前まで歴史をさかのぼれます。当然、いまと生活環境も身体観もまったく違うと思います。となると、ただ漫然と型通りに体を動かしても、数百年前の人が伝えようとしたところには届かない可能性が高いということですよね?

そうですね。生活環境によって体は作られていきます。300年前にできた型なら、300年前の身体観がそこに込められています。いまとは生活環境がまったく違ったとしても、型という環境を使うことで、私たちは300年前にタイムスリップできます。

ただ、現代人にとってはその経験は相当きつく感じます。というのは、かつての普通といまの普通はまったく違うからです。

いまは椅子に座ることを普通にしていますが、昔は地べたに近いところで生活していました。洗濯するにも焚き付けをするにもしゃがんだ姿勢をとります。田植えをするにも中腰の姿勢です。

中腰の姿勢は、現代人にとっては苦行でしかないですよね。この姿勢で朝から夕方まで作業しろと言われても無理でしょう。でも、昔の人にとってはそれが普通だった。

−−中腰の姿勢をとることは、いまだと「空気椅子」のようなトレーニングのメニューになってしまいますよね。

はい。そういう意味で、現代人は足腰がなくなっている。小学校からだいたい高校までの12年間、一日の大半を椅子に座って生活しています。いちばん物事が身につく時期に、手と頭だけ使って「足腰を消していく」練習をものすごくやっているわけです。そうなると、足腰がなくなっても当然です。

−−そういえば意気地のなさを表現する「腰抜け」という言葉を聞くこともなくなっている気がします。抜ける腰もないくらい足腰がなくなっているとも言えますね。

人は足腰が立たないと根本的に自信が持てないものです。自分の足で立つ。これが根拠のない自信につながるんだと思います。それがないから現代人は、他人の意見や評価の中で自分の立ち位置を定めたがるのでしょう。