勝新流ギャンブル、セックス、女の口説き方 ~最後の「弟子」が見た勝新太郎・男の生きざま

田崎健太『偶然完全 勝新太郎伝』後編
田崎 健太 プロフィール

勝新のテープレコーダーの中身

翌日、編集プロダクションから原稿が送られてきた。週刊誌らしい軽妙な文体で、そつなくまとまっていた。上司に見せると「面白いじゃないか」と褒めた。しかし、こうした原稿を勝が一番嫌がるような気がした。勝プロに送ると、すぐに常務の眞田から電話が入った。

「勝がこの原稿は気に入らないそうです。言いにくいんですが、昨日の方は外して、あなたと二人で出来ないかと勝は言っています」

上司に相談し、ぼくが原稿にまとめることになった。上司たちは内館とのやり取りを知っているので、口を挟むことはないだろう。ぼくは勝と二人で連載を進めることになったのだ。

勝は、読者の質問へ真摯に答えることにこだわった。ぼくが一緒にいない時に答えを思いつくこともあるだろう。そうした時のために、勝にテープレコーダーを渡して、答えを吹き込んでもらうことにした。

ぼくは自分が使っているのと同じソニーの無骨なテープレコーダーを勝プロに持って行った。二つを間違えるといけないと、勝の息子の雄大が気を遣って、〈TAZAKI〉と〈KATSU〉と印字したテープをそれぞれに貼り付けてくれた。

都々逸や小唄を使った、粋な口説き文句を教えてくれという質問には、こんな答えが返ってきた。

「口説き文句なんてぇものは人に教わるものじゃねぇよ。自分でオリジナル口説き文句をつくりゃあいいんだ」

節をつけて、都々逸を歌い始めた。

「夕立の ざっとふるほど 浮名は立てど ただの一度も 濡れやせぬ」

自分は沢山の女性と噂を立てられているけれど、一度だって他の女性とは寝たことはないという意味である。勝の語り口には心地よい抑揚があり、間の取り方が絶妙だった。

〈KATSU〉のカセットテープにはこんな吹き込みもあった。
「俺の入っていた聖地って言やわかるだろ? 東京の川の流れてる近くにある聖地さ。わかったかい?」
ハワイから戻り、勝が収監されていた小菅の拘置所のことだ。

「アラーの神にお願いごとをする所じゃないよ。今までの自分を自分で見て、その自分のいい所を出す場所さ。まぁ、あんないい所はないな。

ただ、部屋の鍵を外から掛けられるってぇのが、ちょっと気になったけどさ。自分の部屋なのに、自分で中から鍵を掛けられないなんてぇのがなぁ……。
うん、それでも聖地さ。

夜の九時になると部屋の電気が消えるんだ。自分で消すんじゃないよ。そんな面倒臭いことをしなくても、音楽が鳴り止むと自然に電気が消えるってぇ寸法さ。

いい所だろ?
入りたいだろ?
なかなか入れてくれねぇんだ、うん。
電気が消えて暗くなると、窓に月が出ていて、俺をじーっと見ているんだ。俺も月をじーっと見るんだ。

ハワイで見た月も、家で見た月も、月には変わりはねぇんだけれど、何か変わっているんだ。よーく見ていると、月と俺の間に鉄の格子があるんだよ。うん、運のつきってぇ奴さ」