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マンション神話を崩壊させる「2020年問題」は、本当だった

都心の優良物件も大暴落!

駅近だから大丈夫、湾岸エリアはまだ上がる---そんなマンション神話はもう崩れる。立地の良し悪しなど無関係。マンション価値を根底からむしばみ、大暴落させる「新しい病」が猛威をふるい出した。

審議会が暴露した「真の2020年問題」

東京・新宿区で民間初の分譲マンション「四谷コーポラス」が売り出されたのは1956年のこと。それから約60年の時を経て、日本は全国に約600万戸を抱えるマンション大国となった。

中でも、全国のマンションの4分の1以上が集中、日本一のマンションストック数(168万戸)を誇るのが東京である。

東京都都市整備局(都市整)は、そんな都内マンションの行政をつかさどる大本営。普段はあまり注目されないこの組織が、いま不動産業界で話題の的となっている。

「都市整がパンドラの箱を開けた」

「都内のマンションの9割は23区内に建つが、都市整がそれら優良物件の大暴落を招く『戦犯』になる」

業界関係者からはそんな物騒な声が聞こえてくるのである。

きっかけは約1年前。都市整備局が中心となって不動産のプロたちを一堂に結集して、「マンションの2020年問題」について話し合う審議会を始めたことにある。

審議会の正式名称は、東京都住宅政策審議会。

昨年7月にスタートし、去る9月3日に1年間の議論を答申にまとめたのだが、この答申が業界に大きな波紋を広げているのだ。

「空き住戸の増加や管理組合の機能低下等によって管理不全に陥り、スラム化を引き起こす」

「一たびマンションがスラム化すれば、周辺市街地や生活環境における、治安や景観、衛生面での悪化を招き、地域社会における深刻な問題へと発展する」

答申にはマンション危機に警鐘を鳴らす言葉がズラリと並ぶ。

そもそも審議会が開催されることになったのは、都の人口が2020年にピークを迎えることへの危機感があったから。

さらに、全国的に世帯主の年齢が60歳以上のマンションが約5割を占めるなど、マンション住民の高齢化が急速に進展しているとの事情もあった。

そうした中で、現在どのようなマンション問題が発生しているのか、新たにどのような問題が噴出しそうか。審議会では専門のマンション部会を設置したうえで、プロたちがリアルな実態を次々と明らかにして、答申にまとめた形である。

もちろん、これまでもマンションの2020年問題については、業界内外から指摘されてきた。東京五輪開催に向けてマンション業界は大盛況だが、ブームは五輪終了とともに急速に萎み、価格の値崩れが始まると……。

しかし、この審議会はそうしたブーム終焉の是非にとどまらず、より根深いマンション問題の実態に踏み込んだところに特徴がある。たとえば、前述した部会の議事録には、次のような不動産業界の「裏話」までが赤裸々に綴られている。

「分譲業者が、外国企業にまとめて売却してしまうと、そのマンションの区分所有者の大半を外国企業が占める(中略)その多くは管理費や修繕積立金について認識が薄く、所有者となってからまったく支払わないなど、深刻な滞納問題が生じている。このままでは管理組合の財政そのものが破綻してしまう可能性がある」

要するに、表立って語られなかった「真の2020年問題」の数々を明るみに出してしまったことで、「これが価格暴落の引き金になる」と業界は大慌てなのである。

首都圏郊外では200万円でしか売れない物件も

審議会で特に問題視されたのが、「管理不全マンション」なるものだ。

マンション住民でつくる管理組合が崩壊、それがきっかけでマンションの維持・管理が適切に行われなくなり、マンション価値が地滑り的に下落してしまう物件のことを指している。

聞き慣れない言葉かもしれないが、全国で多発。マンション価格の暴落に直面して、頭を抱える住民が急増している。

東京・世田谷区の人気住宅エリアに建つ8階建てマンションに住む、岡田拓也氏(仮名、53歳)はそんな一人である。

約5000万円で購入した2LDKの部屋を売りに出そうとしたところ、「1000万円台でないと厳しい」と仲介業者から突きつけられたことから、悲劇が幕を開けた。

駅からは徒歩5分圏内で交通至便。相場感覚では4000万円前後で売れると思っていた矢先、「地震でエレベータホールの壁に亀裂が入った。当然、修理が行われると思っていたら、そんな様子もない。どうしてかと調べてみたら、とんでもないことが起こっていた」(岡田氏)。

普段は隣人との交流もなく、ほかのマンション住民たちのことは気にかけたこともなかったが、改めて確かめると、居住者は70代前後の高齢者ばかりになっていた。

マンションは壁の塗装や水道管の劣化など老朽化が始まっており、管理組合の理事会では管理費の増額も検討されていたが、「どうせ死ぬまであと十数年住むだけ」、「別に生活するのに問題ではない」と一蹴されていた。

亀裂についても「構造上は問題なし」と判断、管理費増額を懸念した高齢の住人たちが修理に反対したのが実情だった。

「年金生活者だからという理由で、管理費を滞納している住民も出始めていた」(岡田氏)

このままいけば、住民が高齢化するとともに、マンションも「老い」に抗うことなく、死を待つばかり……岡田氏は恐ろしくなり、売れるうちに売ったほうがいいと、1000万円台でも手放す決意をした――。

いますぐ売る準備を始めたほうがいい

かつての”夢”も「冬枯れ物件」に成り果てた・・・ 〔PHOTO〕gettyimages

不動産コンサルタント・オラガHSC代表で、『2020年マンション大崩壊』などの著書がある牧野知弘氏は言う。

「マンション住民の高齢化が急激に進んでいます。日本全国ですでに、マンション世帯主の約2割は70歳以上です。

一方で、自分のマンションにどんな人が住んでいるか、管理組合がどうなっているか、きちんと把握している人は少ない。管理費の滞納が起き、空き部屋が発生、やがて共用廊下の電気すら消え始めた頃に初めて、自分の住むマンションの危機に気付くわけです。

しかし、そのときはマンション価格が暴落の一歩手前。こうした事例が都会のマンションにも広がりつつある。首都圏郊外では200万~300万円でしか売れない物件まで出てきています」

住民高齢化の問題が怖いのは、住民の高齢化率がある一定レベルを超えた途端、堰を切ったように手に負えない問題が次々と噴出。マンション価値を急速かつ急激に引き下げてしまうことにある。

牧野氏が続ける。

「私の知る事例には以下のようなものがあります。

認知症を患ったと思われる住民が、管理費の支払いを遅滞し始めたので催促したら、『自分はちゃんと払っている』と主張された。さらに請求すると、『脅迫罪だ』と逆ギレされるなど、コミュニケーションが取れなくなった。

親のマンションを相続したものの、片付けだけで一苦労。賃貸に出すにもリニューアル費用がかかるので、ゴミだらけの空き部屋を放置したうえ、管理費も滞納した。

こうした住民が一人、一人と増えていくに連れて、嫌気がさした若い住民はマンションを離れていく。そのうち、老朽化対策もされないマンションに、高齢者ばかりが住む状況に陥る。果てはスラム化、となるわけです」

国土交通省が昨年発表した「マンション総合調査」の結果は衝撃的だ。同調査によれば、「3ヵ月以上の管理費の滞納がある」と答えた管理組合の数が、日本全国のマンションのなんと約4割。スラム化の予兆が多くのマンションに出現していることがわかる。

2024年には団塊の世代が75歳以上になり、3人に1人が高齢者という老人社会に突入する。そのときに動き出すのか、いまから売る準備を始めるか—答えがどちらかは明らかだろう。

タワーマンションは「グローバル化」で自治崩壊へ

富裕層や若者に人気のタワーマンションの住民とて、「例外」ではない。むしろ、より深刻な「管理不全現象」が勃発している。

都心のあるタワーマンション。高層部は億ションとなる超優良物件で、住民たちが頭を抱えているのがマンションの「グローバル化」だ。

複数の中国人が高層階の部屋を購入して住み出したが、日本人住民は生活習慣の違いに唖然。磨き上げられた共用部にたんや唾を吐く、ラウンジスペースで酔って寝る、エレベータ内で飲食をするといった問題行動が頻発している。

そこで管理組合の理事会で話し合おうとしたところ、中国人は、「理事会は中国語でやってくれ」、「管理規約を中国語にしろ」などと反発。日本人住民vs.中国人住民の対立がおさまらないまま、いまもラウンジスペースでは中国人のどんちゃん騒ぎが響き渡っているというのだ。

住宅ジャーナリストの榊淳司氏が言う。

「中国人住民がマンションの一室を友人にホテル代わりに貸し出し、そこで夜な夜な宴会騒ぎが行われる。ベランダから小便をしたり、共用施設のプールで大騒ぎしたりという例も聞きます。もちろんこうしたマンションの価値は下がってしまう。

しかも、中国人が『爆買い』したマンションが続々と完成するのはまさにこれから。タワーマンションが集中する湾岸エリアは、これから本格的にチャイナタウン化していく可能性がある」

タワーマンションを巡っては、「日本人vs.中国人」だけではなく、「上層階vs.低層階」の対立が暗い影を落としているから問題は根深い。

というのも、タワーマンションは高層階に住むのが高所得者、低層階にはそこまでゆとりのない層といった風に、住民の所得格差が大きいという特徴がある。

「そんな両者の対立がマンション価値を大きく下げかねない」と、不動産コンサルタント・さくら事務所の土屋輝之氏は指摘する。

「実は'90年代からリーマン・ショック頃までに『タワマン・ブーム』で売れに売れた物件が、これから一気に大規模改修を迎えます。しかも、タワーマンションの修繕は多額を要するうえ、現在は建設資材や人件費の高騰が重なり、当初見込まれていた修繕積立金では対応できない可能性が出てきました。

ここでネックになるのが、高層階と低層階の所得格差です。高層階に住む高所得者が修繕のための追加負担に応じたとしても、低層階の住民が負担増はきついと反対。管理組合で両者のコンセンサスが取れず、修繕がうまくいかなくなるリスクが浮上してきた」

中国人、高層階、低層階という3者のバトルがマンション自治を崩壊させ、マンションそのものの価値を落としていく。そんな「負の連鎖」がいままさに巻き起こり始めているわけだ。

中目黒、二子玉川エリアの住人は早めの決断を

さらに、ここへきて「チャイナ・ショック」が勃発、手元の現金確保のために中国人オーナーの「売り」が一挙に出るとの噂も浮上している。もし現実となれば、タワーマンションの暴落劇に発展しかねない。

「相続税評価額を割安に抑えられるとして、節税対策でタワーマンションを購入している日本人の富裕層も多い。が、国税当局がいまこの節税スキームを規制しようと動き出していると言われており、近いうちに『タワマン節税』はできなくなる可能性がある。おのずと相続対策狙いの富裕層はタワーマンションから離れていくことになる。すでに湾岸の中古マンションには売りが増えてきているとも聞きます」(前出・牧野氏)

2020年を待たずして、「暴落」の足音は迫りつつある。

そもそも、人口減少社会に突入した日本では、マンションはすでに供給過剰。それなのに、安倍政権はジャブジャブと市場にカネを流すことで、株式市場と同様に、バブルを作って「マンション相場」を演出してきた。

「今年1-6月期、東京23区内の分譲マンション価格は8年ぶりに6000万円を突破した。リーマン・ショック前、'07年のミニバブルと呼ばれた時期よりも実質価格は上がっています」(みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏)

だが、見てきたように、多くのマンションの内情は傷つき、壊れ、根元から崩れ落ちようとしている。その実態が表沙汰になった時、「上げ底」になっていただけ余計に、大きな暴落劇が巻き起こることになる。

「特にイメージ先行で価格が上がっているエリアは、市場の熱が冷めた時、大きな価格の見直しが入るでしょう。東京では中目黒、代々木上原、二子玉川などは要注意です。

特に中目黒は谷底の地形だし、二子玉川は川沿いの低地。地形的に決して高級住宅地の条件を備えていないにもかかわらず価格が暴騰した分、谷が深くなる危険性がある。これらのエリアに住んでいる人で、そろそろ売却をと考えていた人は、早めに決断したほうがいいかもしれない」(ディー・サイン不動産研究所所長の吉崎誠二氏)

かつて夢のマイホームとして人気を博し、サラリーマン家庭が殺到したニュータウンのマンションは「冬枯れ物件」に成り果てた。同じことがこれからは、都心の優良物件へと広がっていく。

先に逃げた者ほど被る損は少なくなる。残された時間はすでに少ない。

「週刊現代」2015年10月24日号より