世界を救う新エネルギーを目指せ!
再生可能・危険性ナシの「マグネシウム燃料電池」をご存知か?

田中 周紀

目指すは「第二の西部開拓史」

ドイツなどのEU諸国では、08年に設立されたデザーテック財団による『メガグリッド構想』が進んでいる。これはアフリカのサハラ砂漠で太陽エネルギー発電を行い、それによって得た電力を約1500㌔離れた加盟各国まで海底ケーブルで運ぶというものだ。

「しかし、これを日本でやろうとしても、一番近い砂漠があるオーストラリア北西部の臨海地域まで6000㌔㍍前後もありますから、インフラの建設費や維持費、さらには送電ロスなどを考えるととてもペイしません」(小濱氏)

そこで小濱氏らが考え付いたのが、東北大が独自開発した手法によって、砂漠地帯で精錬したマグネシウムに太陽エネルギーを溜め込み、これを日本までタンカーで運ぶやり方だった。

リチウムの5倍の発電能力を持ち、しかも放電しにくいとされる難燃性のマグネシウム合金を、砂漠の太陽エネルギーのキャリア物質として利用するのである。

小濱氏は「砂漠は不毛の地どころか、エネルギー生産地としては最高の耕作地。今はアメリカンドリームの地である米カリフォルニア州も、19世紀末の西部開拓の時代は単なる砂漠にすぎませんでした。その意味でわれわれのマグネシウム・ソレイユ・プロジェクトは、新たな西部開拓の歴史を拓くのと同じものと考えています」と力説する。

ただ、前述したようにこのプロジェクトはまだ緒に就いたばかりだ。小濱氏は12年12月、マグネシウム燃料電池を搭載した三輪タイプの電気自動車を運転して、福島県いわき市から仙台市までの一般道を時速60㌔㍍の速度で巡航走行(電気自動車を途中でトラックに載せて移動したため、実際の走行距離は110㌔㍍)。マグネシウム燃料電池による発電の持続力を実証して見せた。

ただ、現段階でのマグネシウム燃料電池は、発車や加速などの瞬間に大量のエネルギーを必要とする自動車など移動体の燃料としては、産学官共同で開発が進む水素燃料電池に比べると力不足は否めない。

小濱氏も電気自動車を走らせる際には、マグネシウム燃料電池が作り出した電力を大容量のリチウム電池に蓄積し、一般道での走行に対応した。

次世代エネルギー候補と目される物質にはそれぞれ一長一短があるとされる。マグネシウム燃料電池も、採算性などとともに、こうした点の克服が今後の課題になりそうだ。

マグネシウム循環社会を実現させるため、小濱氏らは13年4月に「マグネシウム循環社会構想推進協議会」を設立し、関心を示した複数の企業と構想の実現に向けた意見交換を続けてきた。これまでの参加企業は約45社。そのうちの約10社は、それぞれの得意分野で技術開発を担当する意向を表明している。

小濱氏らの「東北大多元物質科学研究所」は8月末、NEDOが募集した15年度「エネルギー・環境新技術先導プログラム」に応募した。

これは「エネルギーや環境の分野で、2030年以降の実用化を見据えた革新的な技術・システムの先導研究を産学連携で実施する」というもので、NEDOは革新的な技術の原石を発掘し、将来の国家プロジェクト化への道筋をつけることを目指しているという。

このプログラムで小濱氏らの構想が採択されれば、早ければ年内にもマグネシウム燃料電池の実用化に向けた研究が本格的に動き出すことになる。

また、マグネシウム循環社会推進協議会の会員企業の方も、マグネシウム燃料電池の具体的な商品化をさらに推し進めるため、同協議会を法人に格上げする方向で検討を始めた。来年には、この次世代燃料電池の名前を耳にする機会がぐっと増えるかもしれない。
 


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