世界を救う新エネルギーを目指せ!
再生可能・危険性ナシの「マグネシウム燃料電池」をご存知か?

田中 周紀
東北大学の小濱泰昭名誉教授

「マグネシウム循環社会構想」

10月に入り、秋の気配が深まる“杜の都”仙台市。10日と11日の両日、JR仙台駅近くの東北大片平キャンパスでは、毎年恒例の「片平まつり」が開かれた。キャンパス内の各研究所が日頃の研究成果を一般市民に公開するこのイベントは、科学分野に関心を持つ子供たちの人気が高い。

そんな中で、小濱氏らの「多元物質科学研究所」が主宰する「産学連携先端材料研究開発センター」のデモンストレーションが、訪れた親子連れの関心を引き付けた。

自動車のバッテリー大の紙容器のふたを開け、中にある4ヵ所の注水口に濃度10%の塩水を注ぐ。すると、紙容器からコードが伸びた照明器具にまばゆい白のライトが灯った。学生たちの説明を聞いて半信半疑だった子供たちから、驚きの声が上がる。

この紙容器の物体こそ、小濱氏らと古河電池、凸版印刷の共同開発で商品化された初のマグネシウム空気電池(=燃料電池)「マグボックス」だ。正極に酸素を取り込む炭素シート、負極にカルシウムを混ぜたマグネシウム合金の板を使用。

合計2㍑の電解液(水または海水)を紙容器内のポリタンクに注ぐと、3分後には発電が始まり、最大で毎時300㍗を5日間連続で発電できる。

2個付いているUSBタイプの出力端子(電圧は5V)を利用して、スマートフォンを最大30回充電できるが、これは単1のアルカリマンガン電池32個(直列4×並列8)の電力と同等という。

注入する水は下水や尿でも構わないため、災害時の避難所などに持ち込んで利用できるのが強みで、紙容器は牛乳パックと同じ素材だ。

ただ、マグネシウム燃料電池自体がまだ開発途上にあるため、マグボックスは本格的な電源としては最大発電量が小さく、逆に一般家庭で使うには容器のサイズが大きい。

そのため現段階での販路のほとんどは「大地震などの非常時に電源が失われるとスマートフォンが充電できなくなり、業務に支障をきたす」と危惧している自治体や企業向けにとどまっている。

それに「マグネシウム循環社会構想」の目玉である「酸化してエネルギーを放出したマグネシウムを砂漠地帯に運んで、精錬しながらエネルギーを充填し、消費地に持ち帰って燃料に利用する」という再利用のプロセスも、砂漠地帯に本格的な精錬プラントができていないため、実現はこれから。

人類の生き残りをかけたプロジェクトは、まだ緒に就いたばかりなのだ。