ノーベル賞受賞 ゼロから学ぶ、大村智教授が開発した「薬」のすごさ

人類と寄生虫の闘いの歴史
佐藤 健太郎 プロフィール

そして我々人間は、どうやら寄生生物にとって格好の棲家であるらしい。ある寄生虫学者によれば、「ホモ・サピエンスは、あらゆる動物の中で、最も多くの寄生生物に寄生されている部類に属する」という。

たとえばヒトの腸内に棲んでいる細菌の数は500兆〜1000兆個といわれる。最近の研究によれば、人体を作る細胞は37兆個程度というから、腸内細菌の数は軽くその10倍以上に相当するわけだ。

細菌ではなく、人体に寄生する動物—いわゆる寄生虫—だけに限っても、その種類は数百に達する。ダニやシラミのように体の表面に寄生して血を吸うものや、回虫や蟯虫(ぎょうちゅう)のように内臓に入り込んで生きるものもいる。目玉の内部に入り込むものとか、脳内や皮下に侵入、繁殖するものもいる。

寄生生物が、人体に与える影響もさまざまだ。マラリア原虫のように多くの人命を奪ってきたものもいるし、それ自身には大きな危険性はないが、病原体を運んで感染症を広げるツツガムシなどの寄生虫もいる。

一方、消化を助けたり、ビタミン類を合成したりするなど、人体にとって有益な腸内細菌も少なくない。寄生生物に寄生されていることが、アレルギーなど各種疾患の発生を抑制しているケースもあると見られ、その人体との関係性は単純ではない。

きってもきれない寄生虫と人類の関係

我々人類は、有史以前から寄生虫との付き合いを始めていた。

たとえばサナダムシは、250万〜100万年前にヒトの腸内に棲めるよう適応したといわれる。これは原人ホモ・エレクトゥスがサバンナで狩りをしていた時代であり、おそらく捕らえた獲物からサナダムシをもらってしまったのだろう。

古くから最も普遍的に存在してきた寄生虫は、回虫だ。特に日本では、稲作において人糞を肥料に使っていた関係で、回虫や蟯虫は国民病ともいうべき存在であった。

平清盛は51歳のころ、高熱が続いて危篤状態に陥ったことがある。しかし、宋の医師から渡された薬を飲むと、ほどなく大量の虫が出て快癒したと伝えられる。

清盛はこの後十数年の寿命を保ち、平家の全盛時代を築いた。もし道半ばにして彼が倒れていたならば、その後700年の武家政権時代は、ずいぶん違ったものになっていたことだろう。