妊婦死亡、流産、14歳の母親……知られざる産婦人科の現場から

大反響漫画『透明なゆりかご』

---妊婦さんが搬送された後の病院の様子で印象的だったことはありますか?

しばらく動けませんでした。あまりに突然の出来事でショックが大きかった。私とペアで仕事をしていた准看護学校の実習生だった人とただ呆然としていました。「え…死んでしまったの…?」と。頭で理解できない感じです。

---大量の血を含んだガーゼがバシャッと床に叩きつけられるという描写もありました。分娩台も血だらけでしたよね。読んでいて言葉を失いました。

先輩の看護師さんに言われて掃除をしたのですが、本当にあたり一面、血の海なんですよ。妊娠中は通常とは異なり、血液の水分量が多いんですよ。色は鮮やかでサラサラ。それがどこまででも広がっていく。

一緒に掃除をした実習生の人は気分が悪くなって吐いていました。その後、彼女は出産が怖くなってしまい、新生児を見ることがつらいと病院を辞めてしまいました。私も夢なら覚めてほしいと思いました。

分娩中の死亡は珍しくない

---作中では沖田さんだけでなく、医師やベテランの看護師さんも呆然としていましたよね。それは初めてのことだったから?

そうですね、それもあります。実際は分娩中に妊産婦が亡くなることは少なくありません。たとえば、いきんでいる時に脳の血管が切れてしまったり、高血圧症候群になって一気に血圧が200 まで上がってしまったりといったケースです。

ところが病理解剖でわかった出血の原因は、癒着性胎盤。本来出産すれば自然に剥がれるはずの胎盤が子宮にくっついたままになってしまうという珍しい症例でした。外科的処置でもって子宮から剥がす必要があるのですが、第二子が生まれる時に引っかかってしまったらしく、剥がれてしまったんです。

---誰も予想しない原因だったんですね。

出血した時にベテラン看護師が想定していた3つの原因の中には含まれていませんでした。

---3つの原因とは?

1つは子宮破裂。2つ目は胎児が生まれていないのに胎盤が剥がれてしまう胎盤早期剥離。最後は何かしらの理由で動脈を傷つけてしまった、の3つです。

その後、癒着性胎盤は妊娠中に見つけることが難しいと聞きました。色々予測しなければいけないけれど、非常にまれな症例の場合はそれだけじゃどうにもならないこともあるのだと、この時イヤというほどわかりました。

そして、後日病院に怒鳴り込んできた旦那さんを見て、あらためてあってはならないことが起こってしまったのだと痛感しました。