ジャーナリスト清水潔さんが選ぶ「わが人生最高の一冊」

小さなドラマに宿る真実の魅力
週刊現代 プロフィール

凄絶な現実をいかに書くか

墜落の夏』と『クライマーズ・ハイ』は'85年御巣鷹山に墜落した日航機事故に関連した本です。

『墜落の夏 日航123便事故全記録』 吉岡忍著 新潮文庫 550円

あのとき、ぼくも御巣鷹山に登ったんですよ。羽田発の日航機が消息を絶ったというのを聞いて現地に向かったんですが、カーラジオでは「群馬に落ちた」「長野に落ちた」と情報が錯綜し、一晩中クルマでぐるぐる回っていた。明け方になって、遠くにヘリが旋回しているのが見えたので、歩いて目指しました。

途中、自衛隊のレンジャーと出遭い、道なき山林に分け入る彼らの後ろからついていこうとしたんだけど、速くてすぐに見失いました。ようやくたどり着いた現場は遺体や機体の残骸で足の踏み場もない、凄惨なものでした。

吉岡忍さんの『墜落の夏』は、あの機内でいったい何が起きていたのか、事故原因の究明や生存者のインタビューを事故後の比較的早い時期に一冊にまとめあげたもので、あの日、自分が目にしたものが何だったのか情報の断片がつながりました。

横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』は、現場を見ているだけに、あの123便を小説にすることに拒否感もあって、文庫になってから手にしました。ところが、予期した内容とは異なり、地方新聞社内の話なんです。

そういえば、ぼくも現場で「上毛新聞」の腕章をした記者を見かけました。大阪行きの便で地元の乗客はいないだろうに「なぜ群馬の新聞が?」と思ったけれど、その疑問の答えがこの作品に書かれている。一言でいえば、地方紙の気概です。

共感したのは、読者の関心を引きやすい事故現場の描写をせずに、刻々と変化する新聞社内の様子を描いていくところです。村社会のような小さな職場のドラマを積み上げてゆく書き方に説得力がある。物語というのは「どう書くか」が重要なのだと実感します。

最後の『やこうれっしゃ』は、文字のない絵本です。最初の見開き頁は「上野駅」の構内で、駅弁を買う人、スキーの板を持った人たちでごった返している。頁を捲るごとに駅を通過し、北陸本線廻りで、朝7時前に「金沢駅」に到着する。それだけの絵本なんですが、見るたび発見がある。

「お茶の容器はプラスチックだったんだよな」「扇風機にカバーが掛けてある」「お、ドアは木枠だ」って(笑)。深夜に眺めていると、小学生のときに父親に連れられて鉄道旅行をしたことを思い出したりして、仕事の疲れが頭からスーッと抜けていくんですよね。

しみず・きよし/'58年東京生まれ。ジャーナリスト、日本テレビ報道局解説委員。'14年『殺人犯はそこにいる』で新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。他著に『桶川ストーカー殺人事件 遺言』等

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▲清水 潔さんが最近読んだ1冊

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
矢部宏治著/1200円 集英社インターナショナル


「安全保障に関する米国のアーミテージ・レポートはなぜ原発に言及するのか。原発に関する決定権は米国にあり、日本が決められるのは電気料金くらい。断片的に漏れ伝わる日米の裏事情が一連の物語として理解できる」

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(構成/朝山実)
『週刊現代』2015年10月17日号より