『墜落の夏』と『クライマーズ・ハイ』は'85年御巣鷹山に墜落した日航機事故に関連した本です。
あのとき、ぼくも御巣鷹山に登ったんですよ。羽田発の日航機が消息を絶ったというのを聞いて現地に向かったんですが、カーラジオでは「群馬に落ちた」「長野に落ちた」と情報が錯綜し、一晩中クルマでぐるぐる回っていた。明け方になって、遠くにヘリが旋回しているのが見えたので、歩いて目指しました。
途中、自衛隊のレンジャーと出遭い、道なき山林に分け入る彼らの後ろからついていこうとしたんだけど、速くてすぐに見失いました。ようやくたどり着いた現場は遺体や機体の残骸で足の踏み場もない、凄惨なものでした。
吉岡忍さんの『墜落の夏』は、あの機内でいったい何が起きていたのか、事故原因の究明や生存者のインタビューを事故後の比較的早い時期に一冊にまとめあげたもので、あの日、自分が目にしたものが何だったのか情報の断片がつながりました。
横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』は、現場を見ているだけに、あの123便を小説にすることに拒否感もあって、文庫になってから手にしました。ところが、予期した内容とは異なり、地方新聞社内の話なんです。
そういえば、ぼくも現場で「上毛新聞」の腕章をした記者を見かけました。大阪行きの便で地元の乗客はいないだろうに「なぜ群馬の新聞が?」と思ったけれど、その疑問の答えがこの作品に書かれている。一言でいえば、地方紙の気概です。
共感したのは、読者の関心を引きやすい事故現場の描写をせずに、刻々と変化する新聞社内の様子を描いていくところです。村社会のような小さな職場のドラマを積み上げてゆく書き方に説得力がある。物語というのは「どう書くか」が重要なのだと実感します。
最後の『やこうれっしゃ』は、文字のない絵本です。最初の見開き頁は「上野駅」の構内で、駅弁を買う人、スキーの板を持った人たちでごった返している。頁を捲るごとに駅を通過し、北陸本線廻りで、朝7時前に「金沢駅」に到着する。それだけの絵本なんですが、見るたび発見がある。
「お茶の容器はプラスチックだったんだよな」「扇風機にカバーが掛けてある」「お、ドアは木枠だ」って(笑)。深夜に眺めていると、小学生のときに父親に連れられて鉄道旅行をしたことを思い出したりして、仕事の疲れが頭からスーッと抜けていくんですよね。
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(構成/朝山実)
『週刊現代』2015年10月17日号より