逆の言い方をすれば、和田容疑者がZ社名義の銀行口座に振り込ませたりせず、コンサート会場などで現金で受け取っていれば、立件は難しかったことになる。主催者側に出演料支払いの記録が残っていても、和田容疑者が「受け取っていない。どこに証拠があるのか」と主張し続ければ、捜査当局がそれを崩すことは困難だからだ。
さらに現金でのやり取りゆえ、国税当局にも把握されにくい。ある芸能プロダクション幹部は「大きなカネが動く芸能界で未だに『ご祝儀』の慣行が残っているのは、こうした事情を芸能関係者が理解しているから」と打ち明ける。
皮肉にも「ご祝儀」の慣行を徹底しなかったことが、和田容疑者の命取りになった、ということだ。
繰り返しになるが、今回立件されたSL社の被害額は氷山の一角に過ぎない。10年10月から13年5月までの2年7ヵ月間を対象に行われた渋谷税務署の調査では、和田容疑者がヴェルヴェッツの出演料を着服したり、私的な支出を付け回したりした金額は約1740万円と認定された。
税務署はこれをSL社が和田容疑者に支払った給与とみなし、SL社側の意図的な仮装・隠蔽による所得隠しと判断。懲罰的な意味を持つ重加算税を含めて約700万円を追徴課税した。
税務署の事情聴取に対して和田容疑者は、ヴェルヴェッツの出演料を「ご祝儀」として現金で受け取るなどして、私的な目的に流用したことを認めた。この結論を受けてSL社は13年12月、和田容疑者を取締役から解任した。
税務署の調査対象に入らなかった期間も含めて内部調査を続けたSL社は、和田容疑者が10年10月から13年7月までの2年9ヵ月間に会社に与えた損害額を約2850万円と結論付けた。
このうち出演料を「ご祝儀」として着服した金額が約980万円、出演料・制作費を別会社経由で着服した金額は約1730万円にのぼる。SL社はこの他にも、10年から12年までの3年間に和田容疑者に対して「仮払金」の名目で約2300万円を支出したが、和田容疑者からは全く返済されていないという。
さらにSL社は、税務署から和田容疑者の給与と認定された着服分にかかる源泉税約440万円を立て替えて納めている。ここまで加えると、和田容疑者がSL社に与えた損害額の合計は約5590万円にものぼる。
しかもカネに絡む和田容疑者の問題はこれだけにとどまらない。長年にわたって利息さえ支払っていない借入金や、裏付けのない情報を流して呼び込んだ投資金など、詐欺まがいのデタラメな行為が次々と浮上しているのだ。