脱税の温床? 芸能界の悪しき「ご祝儀」制度に切り込む
~あの大物プロデューサー逮捕で発覚

田中 周紀

「振り込み」が命取りに

ところが和田容疑者は、他のSL社社員やヴェルヴェッツのメンバーに出演料を受け取ったことを明かさず、

「こうしたイベントはボランティア興業」「東日本大震災の無償の復興イベントに協力している」「将来のための営業活動の一環として、主催者側に恩を売っている」

などと虚偽の説明をしていた。このため、他のSL社社員は「ロビー氏は将来の仕事を獲得するための『仕込み』営業をしている」と信じ込み、経理担当者も主催者側に出演料を請求していなかったのだ。

だが、あまりに無償イベントばかりが続くことに不審感を抱いたSL社の経理担当者が、13年5月ごろ、ヴェルヴェッツのメンバーに事情を尋ねたことから、和田容疑者が主催者から出演料を受け取っていた疑いが浮上。

社内調査が始まった直後の同年7月には、SL社の売上高が少なすぎることに疑問を持った渋谷税務署の調査が入り、和田容疑者の着服の事実が次々と明るみにでた。これを受けてSL社は今年3月、和田容疑者を警視庁原宿署に特別背任罪で告訴したのだった。

今回の立件の対象になったのは12年10月のイオン伊丹昆陽店(兵庫県)でのミニライブ(着服額63万円)、同年12月のかつしかシンフォニーヒルズでのコンサート(同31万5千円)、13年2月から4月にかけて和歌山県新宮市の建設機械レンタル会社が主催した3回のコンサート(同合計100万円)の3件だ。

この3つのケースで和田容疑者は出演料を現金で受け取らず、SL社取締役(当時)のS氏に指示して、ヴェルヴェッツの出演料の全額またはその一部を、S氏の芸能プロダクションZ社の銀行口座に振り込ませ、これをS氏に引き出させたうえで着服した。振り込まれた金額の一部はS氏自身の取り分になっていた。

S氏はある超大物女性シンガーの事務所で楽曲担当のマネージャーをしており、独立後に和田容疑者の紹介でSL社に入社。11年6月からSL社の取締役になり、13年5月には社長に就任した。

ところが、和田容疑者の不正行為に加担していたことを自ら告白し、警視庁に上申書を提出した後の14年8月に解任された。SL社はS氏を和田容疑者と併せて告訴しているが、現段階では逮捕にまでは至っていない。

つまり、この3件は①ヴェルヴェッツの出演料を支払った主催者側の経理上の記録②Z社の口座にヴェルヴェッツの出演料が振り込まれた記録――という物的証拠が揃っていたうえに、和田容疑者の着服に加担したとするS氏の上申書が提出されたため、警視庁は立件に踏み切ることが可能になった。