セレブ暮らしや事業を維持するための借入金が膨らみ、新規の資金調達にも事欠いた和田容疑者は、葉加瀬の“2匹目のドジョウ”を狙ってプロデュースしていたヴェルヴェッツのビジネスを債権者に譲渡して、資金を調達しようと目論む。
ヴェルヴェッツは東京藝大など音楽大学でクラシックの声楽を学んだ本格派のイケメン5人組。韓流ドラマにはまるような中高年の女性層のハートをつかみ、あの安倍晋三首相の夫人・昭恵さんもファンを公言している。
通常のコンサート活動だけでなく、熱狂的なファンになった全国各地の会社経営者らが主催するイベントに“お座敷”がかかるようになっていた。
和田容疑者がそのビジネス権の譲渡先に選んだ相手が、和田容疑者に合計8億5千万円の資金を貸し付けていた東京の不動産会社社長だった。
和田容疑者から「葉加瀬は年間4億~5億円の売り上げがあった。ヴェルヴェッツもブレイクすれば、自分に対する貸付金を短期間で回収できる」と持ち掛けられた不動産会社社長は、10年10月にヴェルヴェッツをマネージメントするSL社を設立し、自らその社長に就任。和田容疑者を代表権のない取締役会長に据えた。
ここでコンサートやイベントの主催者と芸能プロダクションとの、一般的な契約の仕組みを簡単に説明しよう。
プロダクション所属のタレントがコンサートやイベントに出演する場合、まず主催者とプロダクションとの間で出演契約書や発注書などの書面が取り交わされ、契約が結ばれる。そして出演後にはプロダクションが主催者に請求書を送り、主催者から出演料が銀行口座に振り込まれる。
ただ、コンサートなどの規模によっては、音楽業界の古くからの慣行として、「口頭」での交渉ややり取りによって出演が決まり、さらに出演した会場やスタジオなどで、出演料が現金で支払われることがある。
そうした場合でも、支払われた金額はマネージャーなどを経由してプロダクションに入金されるのが当然だが、契約書もなく現金払いのため、その一部や全額を自分の懐に入れる大物ギョーカイ人が未だに存在する。こうした輩は当然、受け取りの領収書など発行しない。着服した証拠が残ってしまうからだ。
和田容疑者も「ご祝儀」と呼ばれるこの芸能界特有の慣行を使って、ヴェルヴェッツの出演料約980万円を着服していた。ヴェルヴェッツの出演料は当時、1ステージ当たり100万円。主催者側はこれを和田容疑者に現金で支払っていた。