常総大水害から1ヵ月 
極限状態で自衛隊ヘリが救助した「2匹の犬と50代夫婦」を訪問

初めて犬の名前を明かす
週刊現代 プロフィール

羽鳥さん夫婦だ—。

どう言葉をかけようか迷ったが、「取材はともかく、せっかくなんで手伝わせてください」と申し出た。聞けば、この日は濁流で流された車からナンバープレートを外すという。悪用防止のためだ。しかし、思いのほか水位が深く、作業は難航した。

一緒に水に入って作業をしていると、水害の際に失くしてしまったご主人のメガネを車の中から偶然、発見。ご主人が初めて笑顔を見せる。そうして夫婦は、少しずつ重い口を開いてくれた。

二人の強い希望もあり、下の名前は明かせないが、年齢はご主人が57歳で奥さんは55歳。ご主人は水戸市内に勤務する会社員で、奥さんは近所の理容室で働いている。

奥さんが言う。

「あの2匹の犬は4歳と2歳で、親子なの。犬を飼うことになったきっかけは、同居していた主人の父親が亡くなったから。私たち夫婦は子供がいません。主人は毎晩仕事で帰宅が遅く、一人で寂しかったので、ペットショップで購入したんです」

犬の名前は、親犬がボンド、子犬がリヤン。ボンドとは英語で「絆」を意味する。この名前は'11年に起こった東日本大震災に由来している。

「ボンドが生まれたのは3・11の直前だったので、夫婦で相談してこの名前を付けた。ボンドは震災の瞬間はペットショップにいて、1ヵ月ほど経過した頃、ようやく我が家にやってきた。震災のせいか、極度の地震嫌いで、小さな地震でも震えたり吠えたりする。だから今回の災害もきっと怖かったと思うよ」(ご主人)

その後、奥さんの親族が飼っているメス犬との間にリヤンが生まれた。こちらもフランス語で「絆」を意味する名前をつけた。

「犬の名前については、マスコミの方にも何度も聞かれましたが一切、答えていません。だって名前が『絆』なんて出来すぎた話でしょ。格好の話題になってしまうと思った。私たちの話だけが美化されて伝わるのが嫌だったんです」(奥さん)

極限状態で過ごした3時間

ここで改めて救助当時の状況を振り返ってみよう。夫婦によれば、あの救出劇は偶然と奇跡が重なった結果だという。

災害の前日からご主人は、鬼怒川の異常を感じ取っていた。

「堤防まで様子を見に行った時、異常な高さまで水面が上がっていたから、直感的に『これは何かが起こるかもしれない』と思った。それで急遽、その日は仕事を休むことにしたんです」

奥さんも「もし主人がいなかったら、私もあの子たちも無事だったか……。その意味では幸運でしたね」と語る。