頑張っている人にもっと頑張れ、なんていえない。盛岡在住の文学作家が描く、運命を変えた「巨大津波」

柏葉 幸子

子どもたちは、きっと大丈夫

今、沿岸の子どもたちは、震災のことにふれられたくないのだと聞きました。震災にあった子だということを隠したいのだそうです。何ごともなく、幸せに育ってきたのだと思いたいのでしょう。つらく悲しい思いをなかったことにしたいのだろうと思います。そうしないと生きていけないのでしょう。

津波にあった沿岸を舞台にした『岬のマヨイガ』を書きながら、そんな思いをえぐるようで、申しわけない思いもありました。でも、心配していることを、夢をみつけて欲しいと願っていることを伝えたいと思ったのです。

今年の3月。大船渡から海岸ぞいに南にくだって、『岬のマヨイガ』に登場してもらった角のある狛犬を見に、宮城の気仙沼に行く計画をたてました。私は大船渡からBRTにのって、途中の陸前高田まで行き、そこで夫の車にひろってもらうつもりでした。JR大船渡線は津波の後、BRTというバスが走っています。

線路だったところと普通の道路を出たり入ったりするBRTは、時間通りに陸前高田の駅に着きました。なのに、夫の車はやってきません。駅のとなりのお菓子屋さんが新店舗の開業日でした。開店祝のお花がいっぱいのそのお店の前で私は夫を待っていました。

今、陸前高田はかさ上げ工事の真っ最中で地図があってもないと同じでナビがききません、どこへいっても行き止まりだったらしく、土ぼこりのまう道で夫は一時間も迷子になっていました。

何度も夫と携帯で話している間に声も大きくなり、とうとう夫婦喧嘩を始めた私をみかねたのでしょう。お菓子屋さんの方や来店したお客さんたちが、わらわらとやってきて、最後には携帯をかわってくれて道案内をしてくださいました。あげくに、開店祝のおいしいお菓子までいただいたのです。

震災の後の仮店舗からの開業だそうです。どんな思いで開業までこぎつけたのでしょう。立ち上がる人たちがいます。優しい強い人たちです。そんな大人がいるのです。頼もしい先生方もついています。子どもたちは、きっと大丈夫です。

読書人の雑誌「本」2015年10月号より

かしわば・さちこ
1953年、岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。『霧のむこうのふしぎな町』(講談社)で第15回講談社児童文学新人賞、第9回日本児童文学者協会新人賞を受賞。『ミラクル・ファミリー』(講談社)で第45回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。『牡丹さんの不思議な毎日』(あかね書房)で第54回産経児童出版文化賞

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岬のマヨイガ
柏葉幸子・著 税別価格:1,500円

あの日、両親を亡くした萌花は会ったこともない親戚にひきとられるために、そして、ゆりえは暴力をふるう夫から逃れるために、狐崎の駅に降り立った。彼女たちの運命を変えたのは大震災、そしてつづいて襲った巨大な津波だった。命は助かったが、避難先で身元を問われて困惑するふたり。救いの手をさしのべたのは、山名キワという老婆だった。その日から、ゆりえは「結」として、萌花は「ひより」として、キワと三人、不思議な共同生活が始まったのだ―。

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