最大手メディアから独立、第一人者が目指す新しい報道 「人材・お金・時間ない地方でもデータジャーナリズムはできる」

「LocalFocus」共同創業者に聞く
佐藤 慶一 プロフィール

ローカルフォーカスの利用者は多様かつ大量のデータにアクセスでき、たとえデータやテクノロジーに苦手意識を持っていても、数回のクリックでグラフを画像やウィジェットとして出力可能だ。地方でのデータジャーナリズムを考慮し、シンプルな設計にこだわった。

大手メディア「NRC」出身のデザイナーとジャーナリズムをバックグラウンドにもつ開発者を巻き込み、サービスづくりに励んだ。だれでも使えるようなシンプルさ――運営側でデータ収集・クレンジング、データベースの追加までおこなっているので、利用者はほしいデータを指定し好きな出力方法を選ぶだけでもいいし、自分でデータを追加していもいい――が高い評価を受け、先述のコンペで最優秀賞を受賞。2万ユーロ(約270万円)の出資を受けた。

ローカルフォーカスは1アカウントにつき月額79ユーロ(約1万円)で販売。複数名やチームで利用したい場合は要相談となっている。現在、有料購読者が3万人を超える新興メディア「De Correspondent」や前回紹介した超ローカルサイト「Dichtbij」、Kamsma氏が在籍していた「NU.nl」など15以上のニュースサイトや新聞社がメディア向けの有料版を利用しており、すでに黒字となった。いまのところ無料版は主にジャーナリズム専攻の学生やフリージャーナリストが利用している。

Kamsma氏はコンペ・起業プログラムを通じて、ジャーナリズムだけでなくビジネス面も強く意識するようになったという。リーンスタートアップの考え方に基づき、必要最小限のサービスづくり、フィードバック、ビジネスモデルの検証を繰り返した。「大手メディアにいたときには意識しませんでしたが、記者やジャーナリストは『自分の仕事がどれだけのお金を生んでいるのか』という視点をもつことも大切だと感じました」。

立ち上げ2年ほどで15以上のメディアが導入している

データジャーナリズムと同時にブランディングもできる

ローカルフォーカスのチームは小さい(創業メンバー3名とフリーランス2名)。フリーランスのメンバーはデータを活用した調査報道を経験してきた人物とFOI(freedom of information)の専門家としてオープンデータにかかわる人物。「データにかかわる専門家が集まりつつあるので、次はフルタイムの開発者を探したい」とKamsma氏は語る。現在はシステムを担当するのはたった1名だ。

少数精鋭で開発・運営するローカルフォーカス。基本的には政府や自治体のオープンデータ、APIを公開している企業やサービスのデータを活用する。APIなどで自動に集められないデータについては各スタッフが収集・クレンジング、データベースへの追加をおこなう(利用者もデータセットを追加できる)。骨の折れる仕事だが、「地方のジャーナリストでもデータを活用した報道ができる」という理想に向けた準備にすぎない。

無料版のアカウントを取得すればその簡単さはすぐに理解できる。たとえば、オランダにおける犯罪について記事を書いたとしよう。ローカルフォーカスにはすでに過去10年間の犯罪件数に関するデータがあり、地域別にデータを取捨選択し、埋め込み用のウィジェット、PDFファイル、SVG画像、PNGファイル、CSVスプレッドシートで出力できる(SVGを用いて紙面に活用する事例もある)。

実際にオランダ各地における1000人あたりの犯罪件数のデータを埋め込んでみた。2つあるが上はマップ形式、下は棒グラフ。わずか数クリックでこのようなインタラクティブなデータを使うことができるのだ。

これは無料版で出力したものだが、メディアが利用する場合、それぞれの媒体に合ったデザインとなる。つまり、同じデータを使うにしてもデザインが異なるのだ。これによりメディア側はブランディングにつなげることができる。デザイナーや技術者がいなくても、データジャーナリズムはもちろんブランディングまで実践できるのはメディアとしてもメリットになるだろう。