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『しんがり 山一證券最後の12人』名セリフ第1位!

「会社の不正に物分かりの良い人間になってたまるか!」
書籍編集者 A

「ついていきますよ」

様子が変わったのは、宮崎支店長に就いたあとからだ。課長や支店次長に就いた時でさえ、「俺でいいのかよ」と思っていたのに、宮崎支店長の後、新宿駅西口支店長、姫路支店長に起用され、入社三十一年目でようやく本社勤務に引き上げられた。その理由を彼は知らない。

たしかに個人営業部門では全国でも知られた実績を残している。法人営業部門が凋落し、嘉本たちの個人営業部門に重心を移そうという本社の方針もあったのだろう。ただし、総会屋事件を前に、彼が常務に昇進したことを「抜擢」と言えるかどうかは、疑問の残るところだ。

「会社は不祥事にもコソコソ個別対応せず、もっと組織として戦うべきだ」

嘉本はそう主張し続けてきた。それほど言うなら厄介な業務監理本部長をやらせてみろ、と祭り上げられたとも言えるのである。

彼は「しっかり調査をやろう」と指示した後、長澤に言った。

「俺は都合の良い本部長にはなれないよ。迷惑をかけるかもしれん」

長澤は大学時代に流行った東映の任俠映画が大好きだった。映画館を出ると、暗い街を肩で風切って歩いた。

当時のスターでは鶴田浩二よりも、「健さん」こと高倉健に惹かれていた。鶴田はたいてい匕首を使うが、健さんは長ドスだ。しかも、耐えに耐えた後に長ドスを抜いて派手に悪党を叩き斬る。その健さん風に恰好をつけるところがあった。だから、嘉本がちらりと吐いたようなセリフには弱いのだった。

「ついていきますよ」

長澤は勢いで言ってしまった。

長澤たちの社内調査に対して、本社の一部は組織的な妨害を始めている。「よけいなことを言うなよ」と長澤に告げた役員の言葉は、もっと上の方の意思かもしれないのだ。

しかし、不正を調べて是正措置を講じるのは、自分たちの本来の仕事ではないか。着任早々の本部長が「調査をやる」というのなら、実務者の自分が支えていこう。

「俺も都合の良い部長ではないからな」。長澤もそう考えていた。