「景気はどうかね?」が口癖の84歳の父に、「景気はいいよ!」と断言してみた

景気がよくならない理由を考える
高橋 秀実 プロフィール

父は目を丸くした。そして「景気がいいのか?」と念を押すので、私は「いい。景気はよくなった」と断言した。

すると父は満面に笑みを浮かべ、「それじゃ、ガッポリか?」と茶摘みのような仕草をした。

私も「ガッポリ」と相槌を打つと、父はそれこそ「夏も近づく八十八夜」の文部省唱歌『茶摘』にあるように「摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ」という勢いで、みるみる顔色がよくなり、目が輝き始めたのだった。

「景気」を決めるのは…

言ってみるものである。考えてみれば「景気はよくない」というのはニッポン人の口癖で、「景気がよい」と言う人をこれまで私は見たことがない。

いうなれば日本の挨拶のようなもので、その挨拶を集計して日本銀行や内閣府などは景気調査をしているのだから、景気がよくなるわけがないのだ。

そもそも「景気」という言葉は、明治期に「business」「trade」の翻訳語としても使われ始めたが、それ以前はただの「気配」を意味していた。例えば、宮本武蔵はこう記している。

景気は即座の事なり。時の景気に見受ては、前向てもかち、後向てもかつ。能々吟味有べし。
(「兵法三十五箇条」『五輪書』所収 岩波文庫 1985年)

要するに「景気」とはタイミングのこと。タイミングをつかめばどちらを向いても勝てる。

「景気がよい」とは、「ここぞ」と思うことで、思ったほうが勝ちなのである。

誰に勝つのかよくわからないが、確かに「景気がよい」と口にすると気配に敏感になるような気がする。景気がよい時に行動を起こすのではなく、行動を起こす時が景気のよい時。景気は私が決めるわけで、言ってみれば私が経済学なのである。

『損したくないニッポン人』の『序』より)

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