元暴力団担当刑事が分析!
「山口組分裂の行方」と警察当局の「対山口組戦略」

なぜ「神戸山口組」を名乗ったのか

警察発表によれば、山健組は構成員・準構成員を合わせると2000人いるので、月に1万円徴収すれば、単純計算でひと月2000万円、1年だと2億4000万円になる。

もっともそれは抗争資金ではなく、山口組本部の兵糧攻めによる長期戦に備えた蓄えのようだ。

「普通、抗争の前にはまず四方八方に頼んで出所のわからんチャカ(拳銃)を集める。けど、その動きが今のところあらへん。そやから、山健や宅見から仕掛けることはないと思います」

先の団体幹部は、そうも話した。山健組や宅見組は関西でかつて勃発した「山一抗争」で中心的な役割を担ってきた。それだけに山口組の代紋を捨ててしまえば、あらゆるシノギ(経済活動)に差支え、じり貧になることを承知している。

だからこそ、神戸山口組を名乗ったに違いない。政界でいえば、「維新の党」を離党した橋下徹が「大阪維新の会」を名乗り続けるのと似ている。

しかも、皮肉にも暴対法のおかげで、新組織はしばらくの間、これまでよりむしろシノギをしやすくなる。神戸山口組の井上たちは、資金源を絶たれなければ闘えるという目算の下、今度の離脱に踏み切ったのだろう。

となれば、当分のあいだは双方がにらみ合い、分裂騒動は長引く――。これが、関係者たちの話を聞いた結果の大雑把な山口組情勢だ。

山口組、神戸山口組、そのどちらも、実は現在のシノギの主戦場は大阪ではなく、東京である。折も折、山健組に関東の住吉会幸平一家総長の加藤英幸が駆けつけ、山口組本部に稲川会の幹部が馳せ参じたのは、文字通りこの先のシノギ争いに対する作戦会議のためにほかならないのだろう。

目下のところ、正面衝突を避けようとしているとはいえ、互いに東京で資金を支えるフロント企業を抱えている。その経済活動の最前線で、いつぶつかるか。それが抗争の導火線となりかねない。関東の広域指定暴力団を巻き込み、一触即発の緊張状態が続く。

一方、こうした山口組の分裂を暴力団の資金源を断つ絶好の機会と虎視眈々と狙っているのが、警察当局である。

九月に入り、大阪府警と兵庫県警が、振り込め詐欺容疑で神戸山口組の山健組(神戸市)と俠友会(淡路市)の組事務所に家宅捜索に入った。それは、神戸山口組の広域暴力団指定に向けた材料集めの一環とみていい。

ちなみに分裂騒動で見落とされがちだが、まさにこの8月下旬、山口組本部から猛毒のゴミが押収されて騒ぎになったことがある。

人体の骨まで溶かすフッ素化水素という劇薬が、無造作に捨てられていたのだが、今度の分裂騒動と無縁ではない、と警察当局は見て、捜査を進めている。