『しんがり 山一證券最後の12人』愛する会社のために戦った男たちの、魂の言葉

「会社のことで、死ぬの生きるのということなんかないですよ」
書籍編集者 A

深夜のアジトで

「いま、私の事情聴取が終わりまして、地検を出たところです」
取り調べが済むと、神経を尖らせた幹部たちは興奮したまま、アジトに電話をかけてきた。彼らには嘉本が、「取り調べでしんどかったら会社に寄ってくださいよ」と伝えている。

「何時でもかまいませんから、アジトには必ず誰かがいます。立ち寄ってビールでも飲んでください」

その言葉に部長から副社長までが次々に応じ、アジトを覗きに来た。自分も逮捕されるかもしれないという不安が、親身になってくれる会社の仲間を求めた。

電話は午後十時過ぎから午前零時を過ぎる時もあった。その電話を長澤たちはじっと待っていて、「一日、大変でしたね」と言葉を返す。会社に電話し、立ち寄ることで精神の安定を図っていた幹部もいた。それは家族も知らない会社人間の一面であった。

前顧客相談室長でもあった菊野は、乾きものの袋をテーブルで開きながら、その日のできごとをいつまでも聞いてやった。人懐っこい笑顔と、薩摩弁を交えた言葉が幹部たちの緊張の鎧を脱がせていく。

「きょうは大変でしたな。まあ、一杯飲みなさいよ」
 菊野からビールをついでもらった部長はうつむいたまま、喘ぐように言った。
「私は検事に話してしまいました」
「うんうん、そうですか」
「守るべき上司を裏切ってしまいました。辛くてゲロってしまった」。

部長の目に大粒の涙が浮かんでいる。

「そんなに自分を責めることはないですよ。何を話されましたかなあ」
「……。私は死んでお詫びしなければならないです」
会社のことで、死ぬの生きるのということなんかないですよ。あなたが苦しむ必要はないんです」

「会社が家宅捜索を受けた時も私はだめだった。大事な書類をロッカーかどこかに隠そうとしたんですが、動けなかった」
「いやいや悩むことはないですよ。あなたが命を張るほどの秘密なんて、会社にはありはせんのですよ
「でも私は上司を守れなかったです……」

(『しんがり』第2章「不穏」より 一部修正)