講談社ノンフィクション賞受賞作決定発表!
眞並恭介『牛と土 福島、3.11その後。』

「受賞のことば」と「選評」
週刊現代 プロフィール

動物の弁護士
中沢新一(人類学者)

動物は言葉をもたない。そのため人間が中心の企画や計画に、参加できない。意見を述べることもできない。動物の運命を決めているのも人間である。動物は人間とよく似た意識をもち、周囲の世界を正しく認識している。しかし言葉をもたないために、自分の運命に関わることですら、人間の決めたことに従属させられている。

宮沢賢治ならずとも、こういう事態はどこかおかしいと思う。言葉をもたない動物に代わって異議申し立てする、「動物の弁護士」となる人間が生まれてこなければならない。すべてが言葉で構成される裁判や会議の場所に、言葉をもたないものたちの「思考」を登場させる必要がある。それをしないでいると、人間中心主義のこの世界は、確実に破綻していく。

『牛と土』の著者は、はからずもそのような動物の弁護士になってしまった。原発事故のあと人間たちは、飼育していた牛や豚や鶏を、放射性物質に覆われた土地に置いて逃げ出さざるをえなかった。時の人権派首相は、そういう動物の殺処分を冷たい目で命令した。

ところが畜産家たちのなかに、その命令に従わない人々が、何人もあらわれた。彼らは悩んだ末に、牛たちを生かしていく道を選び、そのために効率社会の常識に反する行動に踏み出した。

この著者はそういう畜産家たちのルポを続けているうちに、しだいに動物に近い場所から、ものごとを考えるようになった。

放れ牛となった牛たちの意識に入りこみ、草をとおして牛の体内に取り入れられていく土になって、思考しようと試みる。言葉をしゃべらないものたちの意識の世界を自分のなかに取り入れたノンフィクションとして、この作品はユニークで真摯だ。

文学の世界は、人間のことにしか興味のない作品ばかりであふれている。そういう世界に、牛と土が侵入してきたことの意味は大きい。

「生きている牛のために、土は緑の絨緞を敷きつめてくれた。死んだ牛のために、土は布団を用意し、土の国へと招き入れてくれた」