講談社ノンフィクション賞受賞作決定発表!
眞並恭介『牛と土 福島、3.11その後。』

「受賞のことば」と「選評」
週刊現代 プロフィール

エ、これ一作? の不満を持った
立花 隆(評論家)

私が小学生の頃、文部省推薦の映画というのがあった。そういう映画が来ると、生徒全員授業を休んで見に行かされた。それを喜ぶ生徒が多かったが、私は何となく不愉快だった。そのやり口も不愉快なら、いかにも文部省が推薦しそうな内容も不愉快だった。

そういうヘソ曲がりの人間として、オビにレイレイしく「文部科学大臣賞受賞」と刷りこんだ『ひみつの王国 評伝石井桃子』には、読む前から反発心を持った。読んでみての感想も、「いかにも文科大臣が賞を与えそうな作品」の一語につきる。忙しい大の大人が貴重な時間をさいて読むほどの作品ではない。

その対極にあるのが、伊藤彰彦『映画の奈落 北陸代理戦争事件』。文科大臣が絶対に賞を与えるはずがない作品である。ヤクザ映画の世界を題材にして、あるヤクザをモデルに「実録もの」的な映画を作っていく話だ。そのうちに映画の中で描かれるヤクザ世界と、リアルのヤクザ世界がゴッチャになったような、ヤクザの出入り事件が起きる。その結果としてリアルな殺人事件が起きてしまう。虚実が入りまじった反社会的事象世界が舞台。

この作品世界は、本質的に虚実が入りまじった世界だから、大変わかりにくい。私は三回も読みかけては、途中で訳がわからなくなって、投げ出した。虚実二重の登場人物が多くてその人間関係がわからなくなる。三度目にそれがやっと構造的に腑分けされてわかったとたん、作品世界が構造的にわかり、一挙に「こんな面白い本があるのか」と思いつつ読み終わるまでやめられなかった。

虚実二重性が面白いと選考会のアタマの評点付けで、この作品に○を付けた(○△×で評価する)のは私一人。エ、ウソと思った。他の選考委員は本当の面白さに達する前に読むのをやめたのでは? と疑った。後で聞いたら、社内予備選考でも、もっとも票を集めたのはこの作品だったという。

『牛と土 福島、3・11その後。』は悪くない作品で、色々考えさせるが、面白くはない。エ、これ一作? の不満を持った。