【リレー読書日記・生島淳】秋の夜長にオタク心からお勧めする爽やかな怪作・快作

エンジェルボール、海街diary、ドクター・スリープ
週刊現代 プロフィール

重ね読み解く映画と原作

映画では原作の快活さを消し、陰影を与えることで広瀬すずの魅力を大いに引き出している。

また、看護師役である長女の綾瀬はるかは凛々しく、しかも母性を感じさせる女性として描かれる。いつも背筋がピンとしているのだ。「SWITCH」の取材で「背筋を伸ばすのは、モニターを見て自分でも『堅いかな』と思ったんですが」と役作りについて語っているが、是枝裕和監督からそれでいいとお墨付きをもらって性格付けをしたという。

ところがマンガの原作では、この長女は性格がキツい。脚色という段階を踏むことで、原作とは違う世界を監督と女優たちが構築したことが浮かび上がる。映画を重層的に楽しむための読書は、充実感を与えてくれる。

原作とキャラクターが近いのは次女の長澤まさみで、旅館の部屋に入るなり、「ビールぅ、ああ、ビールぅ」とのたうちまわるシーンなど、とってもセクシー。

ホラー作家、スティーヴン・キングの作品は『キャリー』をはじめ、たくさん映画化されているが、新作『ドクター・スリープ』は、スタンリー・キューブリック監督、ジャック・ニコルソン主演で知られる『シャイニング』(この映画は原作小説には遠く及ばないよ)の実に36年ぶりの続編だ。

『シャイニング』で特殊な能力を持つ少年だったダニー・トランスは長じてアルコール依存症となり、ひとつの町に定住できない。長距離バスに乗ってたどり着いたのは、ニューハンプシャー州フレイジャー。そこには彼と同じ類の能力を持つ少女「アブラ」がいた―。

そして悪が登場。ダニーやアブラのような人間の能力を吸い取って生きる〈真結族〉が現れ、対決を余儀なくされる。

キングはボストン・レッドソックスのファンとして有名だが、彼の小説には対決の中に野球のような「流れ」があり、善悪両側に必ずエラーが生じる。そこからストーリーは意外性を帯び、ページをめくるのがやめられなくなる。

そして読み終わった時に感激し、エネルギーが湧く。前作の『11/22/63』のラストは何度読んでも深い感動を覚えるが、『ドクター・スリープ』も読み終えると物語の力に圧倒される思いだ。67歳なのに、すごい知力、体力だと思う。

今回は4巻、6巻、上下巻の作品を紹介してしまったが、秋の夜長のお供にどうぞ。

いくしま・じゅん/ノンフィクションライター。'67年、宮城県生まれ。早稲田大学卒業後、広告会社勤務を経て、'99年に独立。『スポーツを仕事にする!』『箱根駅伝 勝利の名言』など著書多数。最近刊は『エディー・ジョーンズとの対話』(文藝春秋)

※この欄は大林宣彦、堀川惠子、熊谷達也、生島淳の4氏によるリレー連載です

『週刊現代』2015年9月12日号より



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