不正会計の発覚で決算ができない異常事態が続いていた東芝が、9月7日、2015年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出した。二度先延ばしした期限ギリギリで、決算発表も株主総会も済ませていない中での提出となった。
東芝の発表によると、利益のかさ上げ額は2248億円としているが、すでに確定していた本決算である2014年3月期までだと2781億円に達する。この間の税引き前利益の合計は4481億円としていたが、実際には1700億円に過ぎなかったことが分かった。
同日、東芝はコーポレート・ガバナンスの強化など再発防止策を発表。取締役や執行役など役員候補を公表した。取締役11人のうち7人を社外取締役とし、新設する「取締役会議長」に資生堂相談役の前田新造氏を据えることを決めた。取締役会長で現在代表執行役社長を兼務している室町正志氏は会長を外れ、取締役兼代表執行役社長となる。
これで、形のうえでは、経営の監視と執行を分離する欧米型のガバナンス体制が整うことになる。だが、問題は、それが本当に機能するのかどうか。いや東芝の幹部たちが本気で東芝を変えようとしているのか、である。
東芝は、日本に欧米型のガバナンスの制度が選択制で認められた直後の2003年6月に「委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」に移行した。監視と執行が分離されるはずだったが、実際には社外取締役の監視は機能せず、今回の不祥事につながった。実は「形」は作ったものの、巧妙に「魂」を抜いていたのである。
委員会設置会社の「肝」が指名委員会にあることは多くの経営者が認めるところだ。委員の過半数を社外取締役にすることが法律で求められており、社長をクビにする権限を社外が握ることになるのだから、当然である。
日本企業の多くが委員会設置会社への移行をためらったのも、「指名委員会」への抵抗だった。東芝は見事にそれを骨抜きにしたのである。
これまで、東芝の指名委員会は取締役会長と社外取締役2人が務める形が続いてきた。そして、社外の委員には学者や官僚OBなどを据えたのである。社外が過半数の形ではあるが、社長経験者の会長が牛耳る態勢になることは火を見るより明らかだ。