「超地域密着」で月間450万UU、年間売上13億円を実現――信頼と愛着あるメディアのつくりかた

オランダ最大のローカルメディア「Dichtbij」に聞く
佐藤 慶一 プロフィール
Marte van den Brink氏。2011年入社。「Aids Fonds & STOP AIDS NOW!」という非営利団体でも活動する。

入社4年目の彼女は、アムステルダム地域のコミュニティマネジメントをひとりで担当している。Dichtbij全体では約20名のコミュニティマネージャーが在籍し、一人でいくつかの地域を掛け持ちしながら44地域をカバーする。

van den Brink氏は大学でコミュニケーションサイエンスやジャーナリズムを学び、Dichtbijに就職した。日本ではまだコミュニティマネージャーという職業は珍しいが、オランダではメディアやスタートアップだけでなく、大企業にもある職種だという。

Dichtbijにおけるコミュニティマネージャーの仕事は編集とライティング、そして読者とのコミュニケーションだ。朝9時に出社し(17時半退社)、まずは読者が投稿したコンテンツを確認・編集、サイト内外のコメントもチェックする。

「1日にチェックする読者からの記事は、アムステルダムだけで20~30ほどで、写真やコメントを合わせるとかなりの数です。ひとくちにコミュニティマネージャーといっても、地域によって住民やその関心が異なるため、仕事量もやり方も違います」

コンテンツやコメントのチェックが終わると、112チームと同じように速報ニュースをキャッチアップする。アムステルダムでいちばん読まれるのは速報ニュースだという。Dichtbijでは、ただローカルな情報を掲載するだけでなく、火事や強盗や交通事故など「いまなにが起きているのか」をすぐに報じていることも信頼につながっている。

速報ニュースなどセンセーショナルな記事はソーシャルメディアで広がりよく読まれる一方、「アムステルダムで家賃が高い家トップ10」といったリスト形式もSNSを利用する若い世代には人気だという。記事に対するコメントやシェアがあれば、確認し、コミュニケーションをとることもある。

「コミュニティマネージャーとして大事にしているのは、訪問者をユーザーではなく読者や来客としてみること。そのうえで、何度も訪問してくれる人とは、パーソナルな部分でつながること。ソーシャルメディアでコミュニケーションを図ったり、カフェで会って、サイトに対する意見や感想、生活の中での課題や要望を聞くこともあります」

アムステルダムでは1ヵ月に1度くらいの頻度でオフラインミーティングを開催しているという。興味深いのは、首都であるアムステルダムが44地域のなかでいちばん読まれているというわけでもないこと。立ち上げが早い地域のほうが(たとえローカルでも)人気だそうだ。

サイトへの投稿やコメント、記事のシェア、メールなどさまざまなかたちでメディアにコミットする読者とコミュニケーションをとり、コミュニティづくりに励むコミュニティマネージャー。地域に根ざし、信頼と愛着のあるメディアをつくるには、こうした地道な仕事がカギになると感じた。

1万3千人が参加するFBグループがニュースの情報源

Dewi Oudijk氏。現在4年目。アルクマールに近いコッヘンラントという都市の自治体勤務やスポーツ記者を経て、Dichtbijに参画。

速報ニュースを担当する「112チーム」のDewi Oudijk氏にも話を聞くことができた。「いま起きていること=ニュース」をすべて追うこのチームでは、わずか5名しかおらず、早番(6時半から17時半)と遅番(15時から23時半)のシフト制で仕事をする。

基本的にはツイッタークライアントのTweetDeckで地域や報道機関、警察・消防、読者などいくつかのリストを常時チェック。フェイスブックでも各地域の警察・消防が運営するページや市民が参加するグループを確認。事件や事故が起きれば、現地のフリーカメラマンに連絡し、写真を撮影してもらい、サイトに掲載する。

実際にいくつかフェイスブックグループを見せてもらったが、運営者はメディア側ではなく市民が自主的に運営しているものだった。いちばん大きなグループには1万3千人以上が参加し、地域の出来事を共有していた。速報チームはそこへの投稿をもとに取材やコメントを得て、記事化にすることも珍しくない。取材中にもバイク事故があったと投稿があり、それに関するコメントが次々寄せられていた。

スポーツ記者時代より多くの記事を書きたいと思い、Dichtbijに転職したOudijk氏。Dichtbijに入った2011年当時は、スタッフ数が100名を超えていたという。そこから徐々に大都市に軸を移す方針に転換し、いまの80名ほどに落ち着いた。速報チームでも「アムステルダム・ファースト」に情報を発信するようになってきている。

速報チームでは1日に70~80本の記事を出し、一人当たり20本のニュースを書く。読者からの投稿にニュースがある場合は、コミュニティマネージャーと連携し、記事化をすすめる。

コミュニティマネージャーと速報チームはどちらも読者とのコミュニケーションを図るが、これら以外にもソーシャルメディアの担当部署もある。このチームはメディアの公式アカウントを運用したり、企業へのソーシャルメディアコンサルティングなどをおこなうのだという。読者とかかわりをもつ職種がいくつか存在するのは特徴だろう。