「超地域密着」で月間450万UU、年間売上13億円を実現――信頼と愛着あるメディアのつくりかた

オランダ最大のローカルメディア「Dichtbij」に聞く
佐藤 慶一 プロフィール
Dichtbijのトップページ。自分が住む地域や気になる地域を選択すると、それぞれの地方版に進む

44地域に展開するDichtbijの記事は、ローカル、スポーツ、ビジネス、速報ニュースが中心だ。多くの地域に編集者と広告営業が1人ずつ付いているが、地域住民らがコンテンツを投稿できるUGC(User Generated Content)機能も設けられている。この背景には、オリジナル記事だけでは採算が取れないこと、(ローカルな)速報ニュースをカバーするには読者による情報提供が欠かせないという考えがある。

読者が投稿できるのはテキストや写真、動画(YouTubeリンク)で、速報ニュースやイベント、グルメ、求人、不動産などの情報が寄せられる。読者からの投稿やアグリゲーションだけで成り立っている地域もあるという。プロの記者・編集者と市民によるコンテンツが混じることで、新しいメディアのかたちをつくろうとしているのだ。

今回、編集者とコミュニティマネージャー、速報ニュース担当の3名に話を聞くことができた。Dichtbij」とは英語でいう「Close by」。つまり、「近くに(で)」という意味であり、メディア名を体現するような読者との距離の近さを実感した。そんなローカルメディアの理想的なかたちを模索・実現しつつ、しっかり売上を立てているのがすばらしい。

編集者のvan den Hoven氏によれば、収益のほとんどがバナー広告によるものだという。「地域に密着するメディアとして信頼されていることで、1~2年の長期契約でバナーを販売でき、安定した売上につながっています」。バナー広告以外にもスポンサードコンテンツも存在する。カテゴリによって本数にバラつきがあるものの「全記事の10%以下」だという。

地域によっては方言や慣習が異なるため、各地域の担当者がスポンサード記事を制作している。Dichtbijでは当初、編集者がスポンサード記事をつくることが多かった。だが、TMGでは紙媒体を多数発行しているため、次第に編集と広告の分離を徹底するようになったそうだ。

本社のすぐ近く。人や車が少なく静かな田舎だった

熱心な読者とはパーソナルな部分でつながることが大事

実はDichtbijでは、半数ほどの都市で広告営業がいない。売上がないところもあるのだ。手が回らないほど地域が増えた背景には、2012年からフランチャイズ形式を取り入れたことにある。小さな地域では各地の起業家や経営者たちがDichtbijというブランドを借りてメディアを立ち上げていった。同年には80地域、400の自治体をカバーし、運営チームが140名を超えたが、採算がとれない地域では閉鎖した。

年間売上が1,000万ユーロを超えて黒字化したものの、このまま単純に地域や人員を拡大してもビジネスにならない(ちなみにTMGグループ全体では売上5億ユーロ、2000人以上のスタッフがいる)――この点を考慮して、今後はアムステルダムをはじめ、主要都市に焦点を当てる。平日も休日も仕事や遊びで地方から都市部に出てくる人が多いため、大都市を手厚くカバーする、サイトやビジネスの規模を拡大しようというわけだ。

いまでも各都市に一人ずつ編集者や広告営業がいないものの(一人が複数地域をカバー)、全国の情報を届けている。たとえば、事故や火事があったときにすぐ報道する112*チーム(速報ニュース)は全国のニュースを報じている(*112=EUの緊急通報用電話番号)。それでも全都市のすべてのトピックを追うリソースが足りないため、都市部の優先度を上げている。

また、読者とサイトをつなぐ役割を担うコミュニティマネージャーもいる。CGMコンテンツの編集をしたり、読者とコミュニケーションをとったり、コメントやメールに対応したりと、基本的にはオンラインで活動。熱心な読者とはカフェで意見交換や地域情報を聞き、サイトに生かしている。

CGMコンテンツの割合は全体の数%ほどだが、速報ニュースや問題発掘の足がかりになることもある。ニュース記事を投稿する人も一部いるが、短いコンテンツが圧倒的に多い。地域の出来事やスポーツの試合結果、イベント情報などがそうだ。投稿されるとDichtbij側に通知が届き、コミュニティマネージャーがチェックする流れだ。

ローカルなトピックに対して、賛成・反対のアンケートを取るようなこともできる。事件が起きれば現場の写真だけ投稿されるようなこともある。そういった真面目な投稿もある一方、母親と子供が公園で遊んでいる写真アルバムや各地での集合写真なども投稿されていた。

これは日本でいえばフェイスブックの写真アルバムを投稿することに近いと感じた。編集されていない、ありのままの地域の姿や日常が分かる。それに対してコミュニティマネージャーもコミュニケーションをとる。こういうコンテンツややりとりがあるのも、ローカルメディアのひとつの価値だろう。コミュニティマネージャーとして働くMarte van den Brink氏にも話を伺った。