「ナンパの達人」と「インタビューの名手」が明かす、コミュニケーションの極意

特別対談 聞き・書き・生きる(前編)
尹雄大, 高石宏輔

人との出会いだけが自分を加速させる――文章が上達する秘訣

:高石さんにうかがいたいのですが、論理的に説明はつかないけれど、人との出会いで自分の言語や思考が組み替えられたということはありますか?

高石:はい、ありますね。

:人との出会いが、それまでとはまったく違う文章を自分に書かせるようになる。そこには因果関係がありそうな気がするけど、よくわからない、説明できないという感じがするのです。

高石:それはよくあります。

:僕の場合、曲がりなりにも他人が読んで理解できる文章を書けるようになったのは、「天声人語」を書き写すみたいな作業ではなく、人との出会いが育んでくれた、としか言いようがありません。昔はそういうのを薫陶と呼んだのでしょう。

高石:いま思ったんですけど、その時のプロセスってあるじゃないですか。僕は「天啓」みたいなもんだなと思っていて。天から振ってくるというか。実際には人から振ってくるんですけど。そういうのが好きなんですよ。人から何か言われて、「あー……。降ってきた!」みたいな。それをずっと大事にとっているんですよ。で、何度も何度も思い返すんです。

あの時こう言われて、こう思って、そのときにこうなってこうなってという「印象深い出来事の想起」を一人でいる時にしているんです。だから、はじめは何が起こったか、よくは分かっていないんですけど。でもだんだんと、同じ映画を何度も見るようなもので、あのとき相手はこう思っていたんじゃないか、こういう気持ちで言っていたんじゃないか、とか。そういうのを思い返しているんです。

そうやって、好きな瞬間を何回も思い起こして楽しむというか。

:ロジカルな仕組みを理解して身につけたり、ドリルをこなしていくような積み重ねの果てに何かができるようになることは、実はあまりないかもしれません。20代の頃、小さな新聞社に勤務していました。上司からは「どうして君はこれほどまでに書けないのかね……」と嘆かれていました。

決定的な出来事がふたつありました。といっても何気ない会話の中で上司が口にした「“哀歓”の振れ幅を描きなさい」と「傲慢であることと卑屈であることは同じだ」といった言葉との出会いです。

それを聞いた時にものすごく腑に落ちました。「人間ってそういうことなのか!」、感情とか気持ちとか情とかがその人の中で蠢いている存在が人間なんだ!と。そんなこと興奮して言うことかと思うでしょうけれど。小学生のときに感じるようなことがやっとわかったのです。

人の生きる姿、息づかいが少し感じられるようになった。では、どうやって言葉でそれとつながればいいんだろうとようやく考えはじめました。

そこで意味を表すのではなく、キーボードのどこを叩けばいま思ったり考えたりしているのに近い音が出るのだろう、という感覚で文字を打ち込むようになったと思います。意味ではなく「濃度」を文字に転写する感覚です。

高石:僕はそういう意味では逆だな、と思っていて、僕の感情に他人が触れないように、「穴」を掘っているような感じなんです。

割と自分は感情的な人間ではあるのですが、『あなたは、なぜ、つながれないのか』では書いていることに対して感じる自分の感情を掘って、地上に出して、自分の個人的な感情を抜いた落とし穴をずっと掘り続けているような感じなんです。

色んな感情を感じていって、それを全部外に出す。

外に出していったとき、それが大きな穴になっていれば、みんながそれに触れた時、自分の気持ちを感じるだろう。でも、小さい穴だったら「俺は良く分かんないよ」って言われたりするなと思って。

穴が大きければ、その分だけ他の人のさまざまな感情をその中に入れてもらうことができるんです。だから、穴を大きくするために、自分の感情を感じるけど書かない、ということを続けていました。

それについて、尹さんとの裏表感を、聞いていて感じます。

(後編につづく)

高石宏輔 (たかいし・ひろすけ)
1980年生まれ。慶應大学文学部仏文専攻中退。在学中よりカウンセリングのトレーニングを受け始め、セミナー講師なども務める。その後スカウトマンを経てカウンセラーとして活動を開始。クライアントからの要望により、路上ナンパ講習も始める。共著に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(中経出版)がある。
尹雄大(ユン・ウンデ)
1970年、神戸生まれ。テレビ番組制作会社、出版社を経てライターに。これまでに学術研究者や文化人、アーティスト、アスリート、ヤクザに政治家など、約800人にインタビューを行って来た。主な著書に『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)、『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)などがある。