「ナンパの達人」と「インタビューの名手」が明かす、コミュニケーションの極意

特別対談 聞き・書き・生きる(前編)
尹雄大, 高石宏輔

弱いロボットとして生きる

:人との関わり方がうまく設定されていないせいか、「弱いロボット」と言われることもあります(笑)、ルンバ程度の認識機能。人とぶつかったりしたらその都度、軌道修正してプログラムを書き換えないと社会生活が送れないという自覚はあります。

仮に自分の前に立ちはだかる人がいたら、「この人はどういう気持ちでいるんだろう」ということをまず考えます。多くの人にとっては考えなくても処理できるレベルのことも言語でいちいち考えてしまう。

原点は家庭環境なのかなと思っています。基本的に一方通行のコミュニケーションの中で育ったので、言葉に詰まった状態がデフォルトでした。そのまま大人になって社会に出てみたら、えらいことになった。人とまったくコミュニケーションが取れない! 喫茶店でアルバイトしたとき明らかになったのですが、マニュアル通りに行えばやり過ごせるコミュニケーションすら満足にこなせない。

だからインタビューはある種のリハビリだと思ってます。強制的にコミュニケーションを取らざるを得ない状態に置いて、そこで人間っぽさを取り戻している。

高石:自分もそれほどよい家庭環境ではなかったし、尹さんと同じように喫茶店でアルバイトをしたことがありました。

その喫茶店のメニューにはガトーショコラがないのですが、ある時お客さんが「ガトーショコラください」って言ってきたんです。僕はガトーショコラはないような気がしていたのですが、キッチンにいる店長に「あの、ガトーショコラ……」って言ってしまったんです(笑)。オーダーを通してしまった。すると店長は「何で君はそういうことをしちゃうかな……!」って怒るわけです。僕も「すみません……」と。

それははじめて2~3ヵ月後の話で、自分でもガトーショコラがこの店にないことは分かっているんです。でも良く分からないけどガトーショコラの注文を通してしまった。自分にもそういうところがあります。

だけど……尹さんは自分が性能の悪いロボットだとおっしゃるじゃないですか。僕にはそうは見えません。

僕もかなり性能の悪いロボットなんですよ。だからドトールとかでバイトしろと言われても、たぶんできないと思います。でもある時から、性能の悪いロボット具合を全面に表出してみたんです。そうしたら、向き合っている相手がそのペースに合わせざるを得ないということを知りました。

それはナンパしているときもそうです。はじめたばかりのときは早口でたくさん話をして頑張っていたんです。でも、だんだんやっていくうちに、そんなに話さなくても良いんじゃないかな、普段の自分でいいやと思って、あまりしゃべらなくなりました。

すると、話しかけたギャルみたいな女の子が次第に困っていったんです。彼女はまくしたてるように早口で喋る子だったんですが、まくしたてられてもそれに応じずに、しかも緊張せずにゆっくり話していると、段々困惑したように黙るようになりました。その様子を見て、「これは使える」と思ったんです。

そういう、相手よりもゆっくりとした会話の仕方は性能の悪いロボットなのではなくて、人の時間を狂わす一つの武器なのだと思いました。

尹さんの文章を読ませてもらっているときも、「あ、これはやられたな!」という感じがあるんですよ。尹さんの独特の時間の感覚を与えられたなと思って。

それを尹さんが性能の悪いロボットだから自分はリハビリとしてやらなきゃいけない、とおっしゃったところに、謙虚さも感じるし、いやいやそうじゃないだろう!ということも思う、その両面があります。

:謙虚に見えて自分の無力さを武器にしている、と言われたらそうかもしれません。長所と短所というのはセットになっているから、そうした自分の無力さを通じて、相手から何かを引き出していることはあると思います。

とはいえ、無力であるという状態は葛藤の表れでもあるわけです。自分は弱く無力であることを前提にしながらも、そうではありたくない。ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるわけです。そういう状態でコミュニケーションが始まると、最終的にはこじれてしまう。

高石:うん(苦笑)。それは毎度なんですか?

:最近は少し学習能力が高まったせいか、同じことをくり返しているように思えても、ちょっとずつ向上しているとは思います。