第10回ゲスト:渡辺新さん (後編)
「親子二代はもちろん、なかには三代にわたるお付き合いのお客さまもいらっしゃいます」

島地 勝彦 プロフィール

壹番館のスーツで旅立った建築家に教えられたこと

渡辺 実は先生が亡くなられたとき、ご子息からお電話をいただいて、夜中の2時にご自宅にうかがったんです。「大好きな壹番館のスーツを着てあの世に行きたいと、父が話していました」と。かわいがっていただいた上に、そこまで信頼していただいていたのかと痛感して、震えるほど感激しました。そして、最期のお着替えを手伝い、お気に入りのグレンチェックのスーツ姿で納棺しました。

島地 なんと、"おくりびと"までやっていたんですか!? それこそ銀座の商い、人の情と情が交わるおつき合いですね。

渡辺 お客様に鍛えていただくことで仕事が続けられると、毎日感じています。

島地 聞いたか、日野! お前もこのシマジに鍛えられる幸運に感謝しないといけないぞ。

日野 ときどき感謝しています。丹下先生以外にも、壹番館の顧客名簿には、歴代の総理を含め錚々たるVIPの名前がずらりと並ぶわけですよね。

島地 インタビューのときに父上にもうかがいましたが、「具体的には申し上げられません」と、口調はやわらかく、でもピシッとお断りされました。具体名は出さなくてけっこうですが、74歳になったぼくからすると、人間、何歳まで注文服を仕立てる気力があるのかを知りたいです。

渡辺 ある有名な料亭の創業者なのですが、90歳を超えて仮縫いにいらしたことがありました。それもお体の具合が悪く、酸素吸入器をひきずりながらです。

島地 それはすごい。執念さえ感じますね。

渡辺 仮縫いをしながら、どうしてスーツを新調されるのかうかがうと、そのときの答えがふるっていて、「渡辺君、モテたいんだよ!」と。

島地 ますますすごい!

日野 「モテたい」がエネルギー源だなんて、島地さんに通じるものがありますね。

「モテたい!」は、終生変わらぬ男のモチベーション

島地 女や、美しいものへの好奇心をなくしたら男は終わりですよ。モテたい。その思いこそが生きるためのモチベーションという姿勢には共感します。

渡辺 チャコールグレーの無地のツーピースを注文いただき、試着すると、ピンと背筋が伸びて顔色もよくなり、「よし、これから飲みにいこう!」なんっておっしゃっていました。

島地 人間、そうでなくちゃいけません。