無料情報があふれても、若者は記事を買う! 
ジャーナリズムに足りない「ユーザー体験」の考慮

「Blendle」国際担当に聞く
佐藤 慶一 プロフィール
今回のインタビューはアムステルダム中央図書館のなかにあるカフェで実施。ちなみにブレンドルの本社は、アムステルダム市街から電車で30分ほどのユトレヒト駅の近くにある

ブレンドルが証明した「マイクロペイメント」の可能性

ブレンドルは「紙とデジタルが食い合う」という議論とは無縁である――。Binning氏は次のように分析する。

「メディアにお金を払うグループは、3つあると考えています。ひとつは紙媒体に払う層、もうひとつはNewsstandなどのパッケージ購入やデジタル版のペイウォールに課金する層、最後にブレンドルが作り出した記事単体であればお金を出す層。ブレンドルは新しい購買層を生み出し、媒体社にとって新たなマネタイズの道をつくっているのです。なぜなら、ブレンドルがはじまった2014年4月には、1本ずつ記事を買う層はいなかったのだから」

ブレンドルの登場以前、オランダに同様のモデルが存在しなかった。このことは、ブレンドルがまったく新しい読者層の獲得とマネタイズ手法を実現しようとしていることを意味している。これまでメディアの収益化といえば、広告や定額課金などの議論が多かったが(最近ではコマースやイベントなどの文脈もあるが)、ブレンドルの意義は「マイクロペイメント」の可能性を証明したことだろう。

カニバリゼーションが起きない理由はほかにもありそうだ。たとえば、若い有力ジャーナリストが立ち上げていること。当然ながら業界を配慮・考慮して、そのリスクを踏まえたプラットフォームを設計している。あくまで食い合いではなく、別の収益源を確立する試みなのだ。

「これまでオランダには、35歳以下の若い層が記事を買い、メディアにお金を払う場所がありませんでした。ブレンドルではユーザーの半数以上が35歳以下のため、このプラットフォームを通じて、はじめて記事を買ったという人がほとんどです。若い読者に良質な記事を読んでもらうとともに、多くの媒体社が収益化できる機会と場所を提供していきたいと考えています」

ジャーナリズム業界に足りない「ユーザー体験の考慮」

しかしながら、Webで公開される記事の大半は無料のままだ。どうすればお金を払ってもらえるのだろう。Binning氏は音楽業界が参考になるという。YouTubeをはじめ、いまだに音楽を無料で聴くことができるのに、Spotifyには2000万人が有料会員(月額9.99ドル)となっている状況がある。

「利用がとても簡単で、みんなが使っているようなサービスにはお金を払うのだと思います。ジャーナリズム業界が(収益化で)苦しんでいるのは、ユーザー体験を考え抜いたサービスがないから、と言うことができるでしょう」

Binning氏は何度も「frictionless(摩擦のない)」なサービスがジャーナリズムには必要だと語っていた。ブレンドルはワンクリックで記事を購入できる。そして、オランダだけで80媒体以上が参加しているため、閲覧・購入をひとつのプラットフォームで完結できる。これまでのように、各媒体に読者情報を登録する必要がない。理想のプラットフォームのように映るが、まだシリーズAの段階にあるベンチャー企業である。

筆者は、ブレンドルのビジネスモデルが売上の3割を受け取るレベニューシェアだけでは厳しいと考えている。世界中を見れば、Piano MediaやTinyPass、Media Coinなど「マイクロペイメント」サービスはいくつか存在する。これらはブレンドルと違い、媒体にシステムを販売・導入するモデルだ。一応、媒体向けにマイクロペイメントのシステムを販売する予定はあるのか聞いてみたところ、「考えているところ」だという。今後、ブレンドルがどのようなビジネスモデルを描くのかにも注目したい。

最後に、オランダの新興メディアやプラットフォームをめぐる状況は本当におもしろい。冒頭で触れたコレスポンデントも最注目のメディアだと思う。理由は月額(6ユーロ)もしくは年額(60ユーロ)の購読料モデルで3万6000人以上の有料読者を獲得しているからだ。日本の規模に換算すると、25~30万人の有料会員がいることになる。立ち上げからわずか2年の数字として驚異的だ。

ブレンドルとコレスポンデント――この対照的なメディアとプラットフォームのモデルが、どちらも良質なジャーナリズムを考え、共存・成立し、事業として一定の成果を収めている。この状況こそが、オランダのメディア環境に注目すべき大きな理由だと考えている。ブレンドルは秋口からドイツ版、年内に英語版をリリース予定だ。若手ジャーナリストたちによる壮大なジャーナリズムの実験が、これから世界へと向かう。


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