無料情報があふれても、若者は記事を買う! 
ジャーナリズムに足りない「ユーザー体験」の考慮

「Blendle」国際担当に聞く
佐藤 慶一 プロフィール
提供:ブレンドル

友だち、キュレーター、編集部から新規ユーザーを呼ぶ

「3つの経路がある」とBinning氏は教えてくれた。ひとつ目は「友だち」。ツイッターやフェイスブックと連携することで、友人がどの記事を購入したのかを知ることができる。どうせ返品もできるのだから、まずは親しい友人が読んでいる記事を買ってみよう、という流れは想像できる。

2つ目は「キュレーター」だ。政治や経済、メディア、テクノロジー、食、音楽、スポーツなど15以上の分野に関する専門家や識者を起用。現在、約90名がキュレーターとしておすすめ記事を紹介している(キュレーターへの報酬などはない)。

3つ目は「編集スタッフ」によるピックアップだ。編集スタッフ1名に大学院生の編集インターン生を加えた5名ほどで、毎朝ブレンドルの掲載媒体に目を通し記事をピックアップしている。

ソーシャルメディアのつながりで読むのか、専門家の知識に刺激されて読むのか、編集者のセンスに惹かれて読むのか。さまざまな角度から記事と出会い、閲覧し、購入することができる。

「今の時代、読者はコンテンツを探すのに思いのほか時間を取っています。そのためキュレーションの必要性が高まっているといえるでしょう」

3つの経路がフックとなり、サービス開始半年でユーザー数は14万人、1年で30万人、現在は42万人を超えた。

こうしてユーザーが増えれば、参加する媒体数も増える。いまではオランダ国内で80媒体以上がブレンドルで記事を販売。さらに、2015年6月にはドイツにおけるすべての主要媒体との契約を発表(18の日刊紙と15の週刊誌(紙))。9月にはドイツ版がリリースされる予定だ。

英語圏への展開も少しずつ進んでいる。2015年3月、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストと契約。これにエコノミストも加わった。年内の正式リリースに向けて引き続き英米の媒体を交渉中だという。オランダで順調に成長したため、拡大フェーズに入るというわけだ。

ドイツと英語圏(特に米国)――この展開の背景には、昨年秋のニューヨーク・タイムズ社(米国)とアクセル・シュプリンガー社(ドイツ)による300万ユーロの出資がある。「ブレンドルの目的を達成するのにまたとないパートナー」とBinning氏も言うとおり、ベンチャーキャピタルではなく著名な事業会社(媒体社)から投資を受けることで、プラットフォームとしての信頼度は高まるだろう。

特にニューヨーク・タイムズに関してはデジタル版の有料購読者が100万人を超えたものの、紙媒体の販売数や広告売上は苦戦している。第2四半期のレポートによれば、紙媒体の部数は0.9%増、広告は12.8%減(デジタル広告は14.2%増)となっている。デジタル戦略に注力せざるをえないニューヨーク・タイムズにとって、広告でも定額課金でもない新しい収益源をもたらしてくれるブレンドルは魅力的なのかもしれない。

ただどんなに魅力的なプラットフォームだとしても、媒体社の主な関心事は「ブレンドルを通じてどれだけの記事が売れるのか」「紙とデジタルで食い合うことはないのか」といったことだろう。

新聞や雑誌をパッケージ単位でも閲覧可能。マウスオーバーすると記事が表示される

売上でAppleのニューススタンドを抜いた

「2014年4月の開始以降、おおまかに言って、数百万本の記事が買われています」

記事がどれだけ売れているのかを尋ねると、Binning氏はそう語ってくれた。具体的な返答は避けていたが、100万本と仮定すると媒体社あたり年間1万2500本、200万本であれば2万5千本以上の記事が売れていることになる。

媒体あたりの平均売上は年間30~75万円ほどなので、規模としてはまだ小さい。もちろん媒体によって差がある。たとえばDe Volkskrantは昨年だけでも約800万円の売り上げ見込みがあったという。これまでになかった収益が入るという意味では、今後に期待がかかる。

それでもブレンドルはオランダ国内において、AppleのNewsstandより多く売り上げている。その意味では、紙媒体の購入、デジタル定額課金(ペイウォール)、広告に次ぐ有力な収益源となっているようだ。Newsstandの場合はイシュー(号)単位での販売だが、ブレンドルは記事単位でもイシュー単位でも購入できる。

先述の3つの経路や、すべての主要媒体の閲覧・購入をワンクリックかつワンストップで実現できている利便性の高いプラットフォーム設計が受け入れられているのだろう。しかし、ブレンドルに限らず、新しいプラットフォームが生まれるたびに、カニバリゼーション(紙とデジタルでのシェアの奪い合い)が議論される。その点はどう考えているのだろうか。